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Ⅱ:2

「もう直ぐ授業が始まる。どこへ行くつもりだ」 「“先生”には関係の無い事です」 「教師だからこそ関係あるんだろ。次が俺の授業だと知ってのことか?」  それまで由衣を見ていた鋭い瞳が、スッと俺を見た。  由衣に限らず、相変わらず俺もこのナイフの様な瞳が苦手だった。この瞳に見られると、言いたい事が中々言えなくなってしまうから。 「まぁ良い。紫穂、お前は今から俺と準備室に来い」 「なっ!!」  諒は俺を掴んでいた由衣の手を簡単に弾いた。 「勘違いするなよ、由衣。確かにお前は学校の権力者だ。だが所詮、教師(おれたち)からすれば単なる生徒で、ガキでしかない」  高い位置から冷たく見下ろす諒に由衣は唇を噛んだ。細い肩も心なしか震えている。 「一体どう言う心境?」  由衣が憎々しい表情を浮かべ吐き捨てたけれど、俺にはその意味が良く分からず首を捻るしか無かった。だが、どうやら諒には伝わったらしい。  諒は先ほどよりも鋭く目を細めると、クッと口端を持ち上げた。  それを見た多数の生徒たちが黄色い悲鳴を上げる。 「バレて無いとでも思ってんのか?」 「………」 「まぁ、俺もそろそろだとは思ってたからな。良い機会だ」  そう言った諒に由衣は今度こそ隠さず舌打ちをした。 「あんまり舐めてると痛い目に合うよ。覚えといてよね」  教室から連れ出そうとした俺を振り返ることも無く、由衣は背中を向けた。それと同時に、諒も反対方向へと体を向ける。 「さっさと来い」  どうやら俺は、由衣では無く諒に付いていかなければならないらしい。  由衣を避けられたのは助かったが、これはこれで胃が痛む。  兄弟でありながら諒とふたりきりになるのは数か月ぶりのことだった。  それ程に俺たちは仲の悪い兄弟なのだ。  諒に連れて行かれる途中、上代とすれ違った。相変わらず隣に美人を侍らした男とは、目が合う事すらなかった。    

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