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Ⅲ:終
◇
うつ伏せ、腰だけ高く上げさせられた俺の中で暴れ回る凶器。背中で縛り上げられた腕がヒリヒリと痛み、でもそれ以上に腹の中が熱くて死にそうだった。
絶えず聞こえる粘着質な水音と、肌と肌がぶつかる破裂音にも似たそれ。空気が当たる度にピリピリとする首筋は、微かに血の臭いも漂っているから噛み跡まみれになっているんだろう。
「んっ、ん"っ、ん…あっ! あっ」
「諒くんがダメなんだから、由衣が良いわけないでしょう?」
「あっ、んぁッ、ンぅ…あっ、ああっ、」
「抱かれた訳じゃないにしろ、あんな性悪に先こされるなんて許せないよ」
「ぅあ"ぁ"あっ!? あ"っ、ん"んっ!」
体内から鈍く響くごりゅごりゅとした音に、一番"良いところ"を抉られたのだと知る。だけどそれはそんな生易しい話ではなく、脳天を突き抜ける程の、痛みにも似た快感をもたらした。
「もっ、やぁ"……や、やめっ」
それでも後ろだけではイく事が出来ず、その苦痛に体が痺れて痙攣する。俺がぐしゃぐしゃに顔を歪めて泣くと、和穂は後ろからそれを愉しげに覗き込んだ。
「駄目だよシーちゃん。だってここ、僕以外を知ってるみたいだもん」
お仕置き、増やさないとね。
ぐっ、ぐっと腰を深く揺らしうっそりと笑った和穂を目の端に捉え、俺は暑いのに冷や汗をかいた。びくついた体が中をぎゅっと締め付け、和穂がまた笑う。
一体どうしてこんなことに…?
諒が、和穂が、俺を見ていたのはずっと昔の事だったのに。二人の目にはもう、俺なんて映ってなかったはずなのに。今怖いのは由衣だけのはずだったのに。なんで…
今の俺には、答えなんて何一つ分からなかった。
永遠と浮上と沈下を繰り返す中、いつの間にか上がることが出来なくなって暗闇の中に落ちていた。そうしてどれだけ経ったのか、微かな物音と肌寒さに目を開けると、開け放たれた部屋の入口に上代が立っていた。
「上代…」
何とも言えない顔でジッと俺を見ていた。
上代が普通に部屋にいるということは、どうやらもう和穂はここに居ないらしい。目覚めた俺の頭の中は案外冷静だった。
きっと今俺は、酷い格好を晒しているに違いない。
そう思って上代から体を隠そうとしても、腕はまだ背中から開放されておらず、うつ伏せから起き上がろうにも困難を強いられた。その上、動こうとする度に水音を立てカラダの中から和穂が溢れ出した。きっと、太ももを伝い落ちるそれも上代には丸見えなんだろう。
ゆっくりと部屋の中に入って来た上代を見上げる。
「ごめん、腕…外して」
酷いものを見せてる自覚がある。申し訳なく思いながら掠れきった声で頼めば、上代が可笑しそうに口角を吊り上げ手から何か床に落とした。
足元に散らばる無数のプラスチック破片。それは、この部屋の外に取り付けらていたはずのネームプレートだった。所々に『上』だとか『希』と言った字が読み取れる。
「やっぱ、キミの兄弟狂ってんね」
先程まで綺麗だったはずの上代の名前は、今は見る影もなく…無残な程粉々に砕かれていた。
第三章:END
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