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Ⅳ:終

「ね、俺ともしよ?」 「上代っ!!」  壁に手をついたまま振り返り咎めるが、上代の顔は酷く楽しそうだ。 「上書き、して欲しくない?」 「はぁ!?」 「兄弟の感覚、残ったままで良いの?」 「ッ、」  紫穂は漏れ出る声を呑み込み、唇を噛んだ。  上代が言う通り、紫穂の体はまだ和穂を覚えている。強制的に快楽を引きずり出す動きと、快楽と共に与えられた痛み、屈辱、……悲しみ。それを思い出すと、恐怖に囚われ動けなくなった。  出来るならどうか……消してしまいたい。 「俺なら助けてあげられると思うけど?」 「お前…に、何のメリット、あんだよっ、」 「だから、ヤらせてよ」 「お前!」 「じゃあ次男くんは、これからも兄弟にヤられまくって良いの? 単なる同性の俺と、同性な上に近親相姦。どっちがマシ?」  他にも選択肢は有るはずだ。いや、絶対に有る。けど、問題に囲まれた今の紫穂には冷静に考えることなど困難なことだった。 「俺なら優しくしてやれるし、怖い思いもしなくて済むよ? 助けて欲しくない?」  上代の言葉に紫穂の顔がぐしゃりと崩れた。 「……けてくれ…」 「なぁに? 聞こえないなぁ」 「ッ、…好きにして良いからっ、助けろ!! ンむぅっ!? んっ、ん"っ、んふぅっ…」  言い切ったが早いか、紫穂は上代に顎を取られ唇を奪われた。そしてそのまま壁に押し付けられたかと思うと、あっという間に上代の熱が紫穂を貫いた。 「ぅああぁあぁあっ!!あっ、…あっ、ン、ぅあ"っ、」 「締め付け、すっご…」  強引に入り込んで来たものの、上代の動きは緩やかで優しい。痛みなんて全くなくて、でも熱くて、甘くて、そのまま蕩けてしまいそうで…。 「んっ…ぁ、あふっん、」 「何その顔、えっろぉ」 「ンあっ、あ…あぅっ」  和穂にされた行為とは、同じ様でいてまったく異なった。  紫穂は上代に与えられるこの快楽に、どうしようもなく縋り付きたくなった。求め始めた体は触れられずとも胸の突起をピンと立たせる。目敏くそれに気付いた上代は、逃すことなく手を伸ばした。 「ぅあ"っ!!」 「ッ、…今日から恋人のフリ、してあげるよ」 「あっ! あっ、こいっ…びと?」 「そ、恋人」 「んぁあっん、やっ、胸っ…ぃやだっ、」  紫穂の体に散った沢山の赤い痣は、花弁と呼ぶには禍々しすぎる。噛み跡だって深くて濃い。だが、それもひと月程経てば全て綺麗に消えるだろう。 「いや、違うな。俺のだけ残る」  和穂が残した痕跡を、上代は宣戦布告として受け取った。  寮の壁なんて薄いものだ。そのうえ浴室なんて響く場所でこれだけ声を上げれば、隣の部屋どころか上下の階にも紫穂の喘ぎ声は響いているかもしれない。そして明日には、まず間違いなく兄弟達の耳に入るだろう。  兄弟に容疑をかけられた時点で、上代にはもう逃げ道など無いに等しかった。だったら、とことん楽しんでやらないと。  腰を揺らす度に甘い声を上げる紫穂を見て、上代はうっそりと笑い舌なめずりをする。 「俺って、負けず嫌いだからさ」  この時こそが…  紫穂の世界が歪に回り始めた瞬間だったのかもしれない。 第四章:END

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