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Ⅴ:3
◇
案の定、俺たちが寮を出たことは筒抜けだった様で、玄関先には見事に勢揃いした兄弟が待ち伏せしていた。
「皆さんお揃いとは珍しい」
ヘラっと笑った上代が、そっと背中に俺を隠す。
「へぇ、昨日オイタをしたのは三男くんかぁ」
上代の言葉で思わず顔を覗かせ、諒と由衣に挟まれて立っている和穂を見た。そして俺は絶句した。
「和穂…」
昨日までは確かに美しい王子様だった和穂の顔は今、青あざで溢れ、口端も切れて血が滲んでいる。左目など眼帯をしていても腫れているのが分かり、痣もはみ出していた。
「何でそんな怪我…」
「紫穂ちゃんにあんな酷いことをしたんだ、当たり前でしょう? 寧ろ殺してやりたいよ」
にっこりと笑う由衣に息を呑む。由衣はそのまま俺から視線をズラし、鋭く尖った目を上代に向けた。
「それよりテメェ、どういうつもりだよ」
「何がぁ?」
突然口調の変わった由衣に、俺の体がビクッと跳ねた。でも、上代は何も変わらない。そんなことすら知っていたかの様に、上代はヘラヘラと更に煽る様に笑った。
「しらばっくれてんじゃねーよ! オメェが紫穂ちゃんに興味無ぇことくらい知ってんだよ! 今まで放置してた癖にっ、今更何のつもりだッ!!」
鬼の形相な由衣に、途端、上代がケラケラと笑いだす。
「良く言うでしょ? 大事な子ほど、大事過ぎて手ェ出せないって。それがほら、部屋に戻ったらあ~んな酷いことになってた訳よ。そりゃ俺としては、みんなに“コレは俺のですよぉ~”って知らせなきゃならなくなるじゃない?」
ね? と笑って振り返る上代に、俺は口端を引き攣らせた。
「な、何の話だよ上代…」
「えー? だからぁ、昨日次男くんが浴室で喘いだ可愛い可愛い声がね? 色んな部屋にだだ漏れだったって話」
全身から血の気が引いた。
まさか、あんな声がだだ漏れだったなんて……いや、考えれば分かる。あそこは浴室だ。めちゃめちゃ響く。
「ッさいっあく!!」
俺は頭を抱え座り込む。そこに、諒が紫煙を吐き出す音が響いた。
「上代。お前、何したか分かってるか」
諒の誰よりも抑揚の無い声に、再び俺の体が強張った。声を向けられた先は俺なんかじゃないのに…。
「当たり前でしょ」
珍しく、上代の声がふわふわしなかった。
「全部分かってやってる、だから報告しといてやるよ。俺たち昨日からお付き合いしてまーす。この子は……俺のだよ」
「お前、その意味本気で分かってるか」
諒の怒りを含んだ声に、上代が可笑しそうに喉を鳴らした。
「そっちこそ分かってる? 俺にとっちゃ、アンタはただの“教員”だ。それと、ポっと出の成金息子。いざとなったら、俺だって立場使っちゃうよ?」
そう言って首をコテンと倒した上代に、諒は舌打ちをして煙草を踏み潰した。
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