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Ⅵ:1

 ギッ、ギシッ、ギッ、ギッ、 「はっ、ぁっ、あっ…はっ、」  上代と俺との“交際”を気に入らない輩から向けられる冷たい目線にはもう慣れた。上代から契約の報酬を求められる事にも、だんだん慣れ始めてる。  人間は順応性に優れていて、“慣れ”で自分を守ろうとするのだ。それは、有り難いようで少しだけ……怖い。だからこそ、慣れないモノが有ることに俺は安堵していた。  未だに慣れないもの。  その一つは、兄弟達から向けられる異常な感情。  そしてもう一つは、カラダの中に異物が入り込む瞬間と、 「あ"っ! ぁっ……ッ、」  それが、抜け出る瞬間。 「可愛らしい声出すようになっちゃって」  俺の中から抜け出た男は、耐えるようにシーツを握り締める俺に向かってふっと鼻で笑った。 「ちゃんと中、綺麗に洗えた?」  自分で体を清める事にも大夫慣れた。馬鹿にして笑う上代にも、慣れた。ただ、男に組み敷かれ見下ろされる屈辱感だけはどうにもならない。 「もう出るの?」  風呂から出て直ぐにカバンを手に取ると、食パンを齧りながら上代が顔だけで振り返った。 「先に出る」 「四男くん対策か。前にも言ったけど、一応俺たち恋人なんだ。学校ではそれらしくしてよね」 「…………」  靴紐を結び直しながら、俺はそっと溜め息を吐く。  あの玄関前での騒動から、由衣がやたらと付き纏う様になった。逃げようとすれば所構わず人目も気にせず俺を辱める様な言葉を並べるから、仕方なくでも付き合うしかない。ただそこにはもう一つ問題があって、それは… 「俺、あの子に随分と嫌われちゃったよね」  上代に対して全く反応がなかった今までと打って変わって、由衣が上代を死ぬほど嫌っているという事だ。会う度に由衣が過剰な程上代へ噛み付くから、正直一緒に行動するのが面倒で仕方ない。 「お前が退屈なのは知ってる。その退屈凌ぎに俺を利用してることも分かってる。それを理解した上で俺も契約したんだ。アイツらから、逃げたかったから…」  上代が、本格的に体ごと俺を振り返った。 「俺は“助けてくれ”と言ったんだ。…悪化させろなんて言ってない」  由衣が原因だと思ってた。けど、何か違う気がする。由衣が皮切りだった事は確かだったが、兄弟達が激昂し暴走するのは何時も、上代との関係に対してだったから。 「抱いてって言ったのはキミでしょ?」 「分かってる! でもっ、助けると言ったくせにアイツらを煽ってんのはお前だろ!? アイツらの執着が前より酷くなってる! これじゃあ俺にはっ、何の得も無いじゃないか!」  怒鳴った俺に上代がニッと口角を上げた。 「何で。随分と気持ち良さそうなのに」 「ッ!!!」  俺は玄関に置いてあった来客用のスリッパを掴むと、思い切り上代に投げ付けてから飛び出した。 「死ねッ!!」  投げ付けた先から「痛ぁ~」と声が上がったのが、扉が閉まる寸前に耳に届いた。

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