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Ⅵ:3
◇
玄関前騒動から二週間。向けられる好奇の目が、多少なりとも分散し始めた頃だった。
「二階堂さんですよね」
その日の授業をあと一つ残したところで、見覚えの無い小柄な生徒がその大きく溢れそうな瞳をキツく吊り上げながら俺に声を掛けてきた。
「お話があるんです、ちょっと良いですか」
有無を言わさぬその雰囲気に俺が首を縦に振ると、その生徒はさっさと踵を返す。もしかしたら制裁だろうか…。
最悪の状況を予測するものの、唯一助けを求められそうな相手である上代の姿はもう二時間ほど前から教室に無い。“早く来い”とばかりに睨む目に促され、仕方なく俺はその小さな背中の後に続いた。
呼び出しの件は案外早く済んだ。俺が思っていた様な悍ましい物では無く、所謂“忠告”と言うやつだった。もちろん、上代との関係についてだ。
忠告の内容は予測通りのもので驚きはしなかったけど、それでも解放された途端ドッと疲れが押し寄せた。そのまま一応教室に戻ったものの、押し寄せた疲れは酷くなる一方だ。結局始業ベルが鳴るギリギリに早退を申し出ると、俺は迷わず寮へと足を向けた。
少しでもいいから、何も考えずに眠りたかった。
寮に戻ってドアに手を掛けると、それは何故か内側から勝手に開いた。
「ッ!?」
「………」
驚いて飛び退けば、中からは妙に艶のある少年が一人出て来た。出てきた相手は俺を冷たく一瞥して挨拶も無しに遠ざかって行く。暫し呆気に取られながらその後ろ姿を見送ると、思い出したように再びドアに手を掛けた。
「あれ、早いね。どうしたの?」
教室に無かった男の姿は、なんてことない、寮部屋の中にあった。ソファにダラッと腰かけサボり魔の風格を漂わせている。
「もしかして次男君、授業サボったの? まだ数学が残ってるはずだけど」
「お前だけには言われたくない」
「わっぷ!」
悪戯を発見した子供の様な目をした上代に、俺は解いたネクタイを投げつけた。
「だって珍しいじゃん。いつも真面目なのに」
「怠いんだよ。体調不良だ、サボりじゃない」
投げつけたネクタイを取り返そうとすれば、上代はそんな俺の手を掴んで引き寄せた。その引力に負けた俺の体が上代に乗り上げる。
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