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Ⅵ:終
「その怠さ、運動したらスッキリするかもよ?」
掴んだ腕の肘から手首にかけてをレロッと舐めた上代の頭を、俺は手加減無しに叩いた。
「どんだけ欲求不満なんだよ、お前」
「え、」
「さっき出てった奴ってお前の相手だろ? 何回か見たことがある」
上代が驚いて目を見開いた。どうやら俺が、彼の存在に気付いていないと思っていた様だ。
背の高い美人な少年が、遊び人として有名な上代の部屋から色気を漂わせ出てきた。そのうえ上代本人は、正にいま汗をかきましたとばかりに肌をしっとりとさせているし、普段開け放たれている上代個人の部屋のドアも固く閉ざされている。きっと、見せられる状態ではないのだろう。それを見て、上代が何をやっていたか気付かない方が可笑しい。
「風呂、入ったか?」
「…いや、まだだけど」
「さっさと入って来い。そんなに胸元も肌蹴させて…風邪ひくぞ」
掴まれていたままの腕を振り払い立ち上がると、俺はさっさと自分の部屋へ入った。気怠い体を投げ出すようにしてベッドに預け、そのままそっと目を閉じる。
もしかしたら上代は、俺が知らなかっただけでこの二年間、いつもこうして誰かを部屋に連れ込んでいたのかもしれない。だからと言って、別になにも思わなかった。
ここは上代の部屋でもあるのだ、好きにすれば良い。過去に何をやって来たかなんて勿論関係ないし、これからのことだって関係ない。だって俺たちは、“契約”で繋がれているだけの単なる同室者なのだから。
でも、ただ一つだけ。
あえて気になる所をあげるのならば、部屋を出て行ったあの少年は…
(ちょっとだけ、和穂に似てた…)
それだけ考えて、俺の意識は完全に睡魔に持って行かれた。
「これ、一応色仕掛け…だったんだけどね」
ひとりリビングに残された上代は、肌蹴たシャツを指で摘まみ上げた。
シャツから覗く肌は艶めかしくしっとりとしている。紫穂が思う通り、如何にも情事後と言った感じだ。そんな上代の肌を見ただけで欲情する輩がこの学校には五万と居ると言うのに、紫穂には何の効果も齎さなかったようだった。
「あれだけ俺とヤッといて、ヤキモチひとつ焼かないんだもんなぁ」
参るよね…。
ポツリと落とされた上代の呟きは、何処か溜め息にも似ていた。
第六章:END
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