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Ⅶ:2
◇
『これからは毎日一緒に帰ろうね?』
朝一番にそう言った上代は、放課後教室を出て直ぐ数学担当の教師に連行された。どうやら提出物が遅れたらしく、その罰として掃除を手伝わされるんだとか。いつの時代の罰だと言いたいが、まぁ良い。
待っててね! と上代は簡単に言ってくれたけど、正直いつ戻るか分からない相手をひたすら待つのは苦痛だ。5分ほどは悩んだものの直ぐに先に帰ることを決意。教室を出ようと鞄を掴んだところで、今度は俺が捕まった。
これは、上代を置いて行こうとした罰だろうか。
「会うのは初めてじゃないけど…話すのは初めてだよね。初めまして、水城廣世 です」
古くもないのに“旧校舎”と呼ばれている、誰も使わない倉庫と化した校舎に引っ張り込まれ、訳も分からず自己紹介を受ける。
「ミズキ…ヒロセくん」
「僕のこと知らないんだ。これでも一応、風紀の副委員長なんだけど。因みに君と同じ2年」
水城の言葉を聞いて、なるほどと納得する。
この学校の生徒会と風紀委員はやたら顔面偏差値が高いのだ。水城がどちらかに所属していることは寧ろ当たり前だと思えた。それ程に、目の前の少年は美しい。
「えっと、それで……ミズキ君が俺に何の用だろう」
俺の質問に、水城がその形の良い目を一瞬にして吊り上げた。
「先日、君の部屋の前で会ったと思うんだけど」
「ああ…そう、だな」
「何とも思わないの」
「え?」
「僕らが何をしてたか、君は知らないの?」
質問の意図はよく分からないが、面倒な事が起きてる事だけは理解できた。
「知ってる。でもそれは」
「“関係ない”とでも言いたいの」
「…………」
「君は、恋人が浮気したと言うのに何も感じないの?」
折角の綺麗な顔が、酷く歪んでいた。
確かに本物の恋人ならば、即座に上代も浮気相手である水城も断罪すべきなのかもしれない。でも…でも、俺と上代は“偽物”だ。
「上代が遊び人だって事は良く知ってる。俺はそれを承知で付き合ったんだ、責める気はない。それに…どちらかと言うと割り込んだのは俺だろう」
元々深い関係を築いていたのは水城の方が先だった。そこへ保身の為に割り込んだのは、俺。だから責める気も無ければ、責める資格も俺には無い。俺たちの関係はそれ程に脆く弱いのだ。
そう思って口にした事だったけど、どうやら水城はそれを侮辱として受け取ったようだった。
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