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Ⅷ:2

 “次男くん”  上代は基本、俺のことをそう呼ぶ。俺はそれが密かに嬉しかった。  和穂たちの取り巻きの中には俺の存在を知らない者も多くない。長男が諒、次男が和穂、三男が由衣。存在しない俺の姿を、興味ないはずの上代が捉えていてくれた。そんなほんの少しの事が、また俺に、小さな喜びを与えていたのだ。でも…。  上代に掴まれていた手を、彼の指から抜き取る。  先ほど篭められた力は矢張り強かった様で、俺の手首にはうっすらと手形の痣が浮かんでいた。 「上代…和穂に前、言ったよな。“挑戦状を受け取った”って」  俺が和穂に犯された次の日、兄弟が全員玄関前に揃って待っていた。そんな兄弟達を前にした上代の口から出た言葉は、他の誰でもない、和穂に向けてのものだった。 『君からの悪趣味な挑戦状、ちゃんと受け取ったよ』  あの時はただ、顔に酷い痣を付けた和穂を見て、由衣の言葉を聞いて、俺を犯したのが和穂だってことに気づいたんだと…そう思っていた。 「お前は始めから、俺を犯したのが和穂だって気づいてたんだろ」  由衣でも、諒でもなく、俺を“ああ”したのが和穂だと、きっと上代は直ぐに気付いていた。そして、上代が知っていたのはそれだけじゃない。 「お前は、俺に手を出せば和穂が暴走するって、ああやって俺を抱いた相手に喧嘩をふっかけて来るって知ってたんだ」 「じな…」 「だから俺の誘いに乗った。“厄介ごと”が付いてくることを期待して」 「次男くん!」 「呼ぶなッ!!」  俺が遂に叫び声を上げると、部屋の中がビリビリと痺れた。上代の顔に困惑が広がる。 「お前が俺をそう呼ぶのは、俺が次男だからじゃない。和穂が“三男”だから…和穂を正しく認識しているから、お前は俺を…」  馬鹿みたいだ。  アイツらに興味のない人間を選んだつもりが、一番執着してる奴を選んでたなんて。俺を認識していると思ったら、それもまた、単なる付属としてだったなんて。  

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