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Ⅷ:3

 上代がなんで和穂に執着してるのかなんて知らない。それが憎しみなのか、恋情なのかだって知らない。知らない。知りたくもない。今分かってることだけで十分すぎた。 【俺には何もない】  そう、結局俺には…兄弟意外何もないのだ。アイツ等以外で、俺を俺として見てくれるやつなんて誰も居ないんだ。 「俺が誰に犯されたか直ぐに分かったくらいだ、お前ならわかるんじゃないのか。俺が今日、誰に触れられて来たか」 「ッ、」  上代が息を呑んだ。その表情は少し傷付いた様にも見えたけど、今の俺にはどうでも良い事だった。 「好きなだけ確かめてみろよ。諒か、由衣か、それともお望み通り和穂か。もし和穂なら、前みたいに残骸が残ってるかもしれないぞ」 「やめろッ、なに馬鹿なこと言って…」 「馬鹿なこと? 馬鹿なことって何だよ。和穂が抱いた痕が残る俺のカラダを抱いて、興奮したくせに」 「違うッ!」 「違わないッ!! 諒くんが言ってた…俺のカラダ、和穂と似てんだってな。和穂のニオイがする俺のカラダは、さぞかしアイツを抱いてるみたいで気持ち良かっただろ!」  ――パンッ  破裂音が耳に届いたと同時に左の頬が熱を持つ。衝撃のせいなのか何なのか、俺の意思を無視した涙が、一粒だけ頬を溢れ落ちた。 「ぁっ、…っ、」  俺を殴った手を持て余した上代が、何度か口を開こうとするが失敗する。結局そのまま何も言葉は生まれず、俺は熱を持った頬とともに上代の前から踵を返すと玄関へ向かった。 「まっ、待ってよ! どこ行くつもりだよ!!」  凍りついた体が漸く解凍されたのか、上代の声が背中に飛んできた。俺はゆっくりとそれに振り返る。目が合った上代は、今までに見たことも無いほど情けない顔をしていた。 (そんなにバレた事が辛いのか?)  今の俺には、上代の何もかもが憎らしく思えた。 「俺の行く場所なんて一つしかないだろ。もう…どうでも良い」 「なっ、」  そのまま俺は弾かれる様にして部屋を出た。  寮から飛び出した勢いのまま先ほど帰ってきた道を逆戻りする。殆んど人気の無くなった校舎の中へ足を踏み入れ、職員室のもう一つ上の階へ足を向けた。その階の廊下には、申し訳程度に電気が点いていた。  少しだけ不気味に思えるその階で使われている教室は殆んど無いが、唯一ひとつだけ、準備室として使われている部屋がある。  ノックもせずにドアを開ければ俺が来ると分かっていたのか、タイミングよくタバコをもみ消した男がうっそりと笑った。 「お帰り、紫穂」

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