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Ⅸ:5
「兄弟にまで見捨てられる事が怖かった。だからいつか、諒くんたち以上に俺を見てくれる人が現れるまで…それまでは失っちゃいけないって、そう思ってた」
けど、もう気付いてしまった。
恐怖に苛まれ、嫌悪感に襲われながらも捨て切れなかったそれが…他と、何も変わら無いという事に。
「由衣も、和穂も、諒くんも…みんな、俺を欲しいって言う。でも、それって本当に“俺”なのか?」
「紫穂…」
「紫穂ちゃん…?」
「………」
紫穂を脅し、自身を無理矢理抱かせた由衣。
力で組み敷き、酷い暴力と共に紫穂を強姦した和穂。
そして、自ら堕ちて来るまで待つと言う諒。
「そこに俺はちゃんと居るのか? いや、居ない。みんなが欲しがってんのは紫穂と言う名の人形だ。ビビって、縮こまって、言いなりのままに泣きながらアンアン喘ぐ人形だ」
「紫穂っ!!!」
諒は紫穂の手を付けたまま、その胸ぐらを荒々しく掴んだ。紫穂は逸らしていた目を諒に戻す。けど、瞳が揺れていたのは矢張り、諒の方だった。
「他の奴らと変わらないのは上代じゃない、お前らだよ。それから、一番馬鹿で間抜けで阿呆で……救いようがないのが、俺」
兄弟達から逃げようと思うなら、きっともっと、別の道があったはずなのだ。こんな欲に濡れた道なんかじゃ無い、もっとまともな道が。
それを選ばなかったのは間違いなく紫穂の意思であり、兄弟への依存から来るものだった。
「求めるものを間違えてた…俺が欲しかったのはこんな関係じゃない。俺はただ、『一緒に帰ろう』って俺の手を握って来る半身と、『おかえり』って言いながら髪を撫でてくれる兄と、『遊んで』って絵本を持って駆け寄ってくる…弟が居てくれればそれでっ、それで……俺は」
紫穂の目から、遂に涙が溢れた。
「俺はそれで支えられてたんだ。例え父さんと母さんが俺を見てなくても、」
例え、他人が自分を必要としなくても。この美しい兄弟たちが、“弟”として、“半身”として、“兄”として慕ってくれるだけで、それだけで十分満たされていたのだ。
「俺にはそれだけで十分なんだ。それしか要らない。もしそれを取り戻せないなら、俺は今なんて要らなッ…ンっ! ぁ…んんっ、んっ」
胸ぐらを掴む諒の手に力が篭ったかと思うと、紫穂は言い切る前に唇を塞がれた。喉が閉まり息苦しくなるが、紫穂は諒から目を離さず口内の蹂躙を甘んじて受け入れた。
ぢゅぶぢゅぶとその場に相応しくない卑猥な水音を何度か立てた後やがて解放され、互いの荒い呼吸が闇の空気を震わせる。
ポロポロと涙が零れおちる紫穂の瞳を見つめながら、諒はギリっと歯を噛み締めた。
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