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Ⅸ:終
「捨てるのか、俺たちを」
諒の瞳は大きく揺れていた。
「今まで縋ってきたものを、今更手放すのか」
紫穂は諒の瞳から目を逸らすと、そっとそのまま側に立つ由衣を見た。諒よりも絶望の色が強く現れているその顔に胸は痛むが、頭の中は逆にクリアになる。
「俺は、俺を捨てる」
由衣は目を見開き、諒の腕は一瞬震えた。
「だからもう抵抗しない、逃げない」
「紫穂…」
「その代わり何もない、空っぽになる。誰かを選ぶことも無い。そんな俺で良いなら、あげるよ、全部。好きにしたら良い」
この先も普通に生活したいから、なんて馬鹿げた理由で兄弟を抱くことも、抱かれることも、もう無い。自身を捨てる人間に考え選択する必要なんて無いのだから。
そうして紫穂は、全てを投げ出し諒の前で瞳を閉じた。
だが―――――
「“諦め”と“逃げ”では全然意味が違うんだよ」
突然響いた声に紫穂は再びその瞳を開く。二階堂家の兄弟全員の視線を浴びて入り口に現れたのは、他でもない、紫穂を探し走り回っていた男だった。
「上代…?」
どれだけ走り回ったのか、その肩は大きく上下に揺れている。そして僅かに外から入り込む月明かりに照らされ、その額が汗でキラキラと輝いた。
「逃げるって決めたなら、最後まで逃げ切ろうよ、次男くん」
異様な空気を気にもせず部屋に入ってくる上代の口元は、不敵に弧を描いていた。
第九章:END
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