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「いいや、聞くべきだと思う。今まで散々次男くんを好きに動かしてきたんでしょ? 近寄る者を排除して、無理やりに自分たちしか見れないように仕向けてさ。けど、だからこそアンタ達は知らなさすぎる」  兄弟たちに襲われた後の紫穂はいつだって悲壮感に濡れていた。その姿は酷く艶めかしく隙だらけで、興味本位だったはずの上代は気付けば思わずその隙を狙って入り込んでいた。  一度体を許している相手に紫穂のガードは驚くほど脆く、簡単に“偽の恋人”なんて馬鹿げた関係を築かせてくれた。でもそうして擽られた加虐心は、その後の紫穂との関係で徐々に変化していったのだ。 「いつも諦めたような顔してんのにさ、偶にふっと笑うんだ」  だけどそれは、いつだって上代の想像とは違う場面で見せた。 「アンタ達さ、一体いつから次男くんの笑顔を見てないわけ? 端から見てたって、兄弟の間でそんな時間持ててないよね。それでどうして満足してられんの?」  好きだって言うなら、笑った顔を見ていたくないの? そんな上代の言葉に、諒も由衣も、そして和穂でさえも思わず言葉を失くした。 「手に入れてしまえばそれで満足? 泣き顔ばっかり見ててそれで満足? 次男くんの体を好きに出来ればそれで満足なのかよ。隙に付け込んだ俺が言えた立場じゃ無いのは分かってるけど…それでも俺は、嫌だと思ったよ。強引に抱いたって快楽は与えてやれるけどさ、次男くんは……そっと抱きしめて優しく頬にキスすると、恥ずかしそうに擽ったそうに…小さく綺麗に笑うんだ」  紫穂は顔を真っ赤に染めた。そんなこと、紫穂自身も知らないことだったからだ。 「お…俺、」 「笑ってくれたんだよ」  上代は紫穂に向けて、これ以上ないくらい優しく微笑んだ。 「兄弟達が可笑しくなるのは理解出来る。次男くんは俺たちを狂わせる何かを持ってんだ。“逃げたい”って言う癖にちっとも本気で逃げない次男くんを見て、俺だって何度酷く犯してやろうと思ったか分かんない。けどさ…結局最後に見たくなるのは脅えて泣いて縋る顔なんかじゃなくて、嬉しそうに笑ってくれる顔なんだよね」  真っ直ぐ、紫穂だけに向かって、上代はその長い腕を伸ばした。

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