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Ⅹ:7
校舎から飛び出した二人の頭上は、来た時よりもどっぷりと夜に浸かっていた。体育会系ではない二人には永遠に走り続ける事なんて無理な話で、二人は校舎から少し離れた茂みに身を隠し息を吐く。
そうしてやっと落ち着いたところで二人の目がふと合った。紫穂は思わずそれを逸らそうとした。でも、
「驚いてるよね」
そう言って困ったように笑う上代を見て、結局それは失敗に終わる。
「驚くのも無理はないよ、俺自身驚いてる」
「上代…」
「あ、やっぱ少し赤くなってる」
上代は薄暗い街灯に照らされた紫穂の左頬をそっと触った。
「これ、俺のせいだね…さっき俺が叩いたから」
「え? あ…」
寮で和穂の身代わりの件を口にした途端、上代に加減なく頬を叩かれたのだ。
「もう、忘れてた」
「ハハ、それどころじゃなかったよね。でも、ごめん。叩くつもりなんてなかったのに…本当にごめん」
「良い。俺男だし、別にこんなの大した事じゃ…」
「良くない。全然良くないよ」
触れていただけの指が、するりと肌を撫でた。
「傷付けたくない。なのに…次男くんを見てると無性に傷付けたくなる時があるんだ。これは衝動的なもんだったけど、それとは別に、もっと残酷な気持ちになるんだよ」
優しく自分の頬を撫でる上代に、紫穂は戸惑うしか出来ない。
「それは…やっぱり和穂の事が関係あるのか?」
紫穂が部屋を飛び出す原因にもなった、上代が和穂へ向ける感情の種類。それを口にすれば、上代は大きく溜息をついた。
「やっぱ気になる部分はそこだよね。それは俺も誤解を解いておきたいんだけどさ…さっきも言った様に、本当に俺は三男くんに恋心なんて持ってないんだ。次男くんと三男くんを重ねて見たことも無いし、次男くんを誰かの代わりに抱こうなんて思ったことも無い。そもそも俺は、三男くんの体なんて見たこと無いからね?」
上代が苦笑する。
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