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第3話

「はあ〜」 身体から力が抜け、その場に座り込んでしまった。廉は、向き合った位置になぜか正座した。 「なんで、そんなこと。いつから?」 「…中学に入った頃?」 「早えな!」 廉が顔を赤らめながら、照れ臭そうに語りはじめた。 「中学の頃から、女のアイドルとか女優とか、他の奴らがかわいいって騒ぐ女子とか、どんな女を見ても慶生の方がかわいいって思ってた」 「へえ?俺は中学んときはもう剣道をバリバリやってて、オカマっぽいとこは全然なかったと思うが」 「…俺は、女の代わりにお前を好きなわけじゃない。男としてカッコいいと思うし、笑った顔がかわいいと思う」 思えば、廉は昔からそんなことを言っていた。 剣道の道着を着ている姿や、運動会で応援団をやった時の長めのハチマキをなびかせている姿をカッコいいカッコいいと絶賛し、果てはテストで高得点をとった時まで「超クール」と目を輝かせた。いつも盛大に褒められて、多少の気恥ずかしさと薄気味悪さを感じないでもなかったが、廉の素直な称賛は単純に嬉しかった。あの称賛の裏にこんな下心を隠していやがったのか、と思わず首筋が寒くなった。 俺の感動を返せと文句のひとつも言ってやりたかった。だが、柔道部員らしく髪の毛を耳の後ろまで短く刈り込み、制服の半袖シャツからのぞく二の腕の太さからも筋肉を鍛え上げているのがわかる73キロ級の身体を、今、目の前で恥ずかしそうに縮こまらせ、頬を染めてモジモジしているのを見ると、不覚にも廉をかわいいと思いそうになった。 「…いやいや、だからって、そんなことを急に言われても。大体お前、彼女いたじゃんか。しかも複数!」 「勘違いかもって思ったんだ。友情と恋愛はちがうって。だから、ちょっとでもいいなと思う女子と付き合ってみたけど、違和感があった。エッチしてても、なんか違うなって」 鬼畜なことをさらっと言いながら、廉はまた眉毛を下げじっと見つめてきた。 「慶生、俺が嫌い?」 「その聞き方は卑怯じゃないか?」 「慶生」 「き、嫌いじゃないけど、それとこれとは話しがべつ…」 言い終わらないうちに、またしても廉が抱きついてきた。告白して感情が高まってきたらしく、強く抱きしめながら言った。 「ゆっくりでいいから、俺のこと考えてみて」 「ゴホッ、廉、わかったから、も、もう少し…、腕、緩めて…」 俺の髪に顔をうずめてどうやらうっとりしているらしい廉の腕を、全国大会常連の柔道部主将ともなると、絞め技もこんなにキツイのかと実感しながら必死でタップした。

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