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第7話

廉をパンチで怯ませ、ダッシュでその場を離れた。そのまま帰宅し自室に飛び込むと、早鐘のように高鳴る心臓をなんとかなだめようと、大きく深呼吸を繰り返した。走ったせいだけではない動悸に、急に男に迫られた女子の気持ちが初めて理解できた。気持ちを確かめ合った訳でもない女子に、不用意に迫るのはやめようと固く誓った。 動悸も収まり冷静になってくると、廉への思いが頭をもたげてきた。 修学旅行や宿泊学習、夏のプールなど、小学生の頃から一緒にいる廉とはお互いの身体も散々見て、細部まで知り尽くしているつもりだった。廉が自分のモノの皮を剥いた日や、初めて自慰をした日も知っている。奴が初エッチした日すら、様子がおかしいことにピンと来て、問い詰めたことでより深く記憶に刻まれてしまった。(それにしても、男に好きだと言ってきた廉は童貞ではないのに、そんな性癖はないはずの俺はまだまっさらとは、なんと理不尽なことか!) ベッドに寝転び天井を見上げながら、長年の友が自分に対して持っていた思いに気づかなかったことに罪悪感を感じていた。お互いの家に度々泊まり、プロレスごっこで身体を密着させたり、一緒に風呂に入ったり、このベッドで二人で寝たことも何度もある。自分が好きだと思っている相手と、そうと悟られることなく親しく付き合うのがどんなに大変なことか。俺と一緒にこのベッドに横たわりながら、廉はどんな思いでこの天井を見上げていたのか。奴の胸の内を考えると、あまりの切なさに自分の胸がズキズキと痛み、その痛みに大いに戸惑った。 翌日から、一週間ほど廉を無視してやった。ひとの胸を断りもなく揉んだことへのお仕置きと、自分の気持ちと向き合い、整理する時間が必要だったためだ。 廉は見るからに落ち込んでいて、肩を落としてシュンとしていた。だがいつもこちらを見ているようで、たまに視線をやるとバチッと目が合い、俺に睨み返されて慌てて顔を背けるというようなことを繰り返していた。

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