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第8話

廉の衝撃的な告白を聞いた残暑厳しいあの日から時は経ち、秋も深まり制服が冬服に替わった。風が少し冷たく感じられるようになった土曜日、剣道部も柔道部も練習が午前中で終わり、今日も俺に無視されて傷ついたハートを胸にとぼとぼと帰ろうとしていた廉を確保すると、とあるマンションに連れて行った。何も言わずにいきなり見知らぬ部屋に連れ込まれて、廉は大きな身体を縮こまらせて、小型犬のようにきょときょとと挙動不審に辺りを見回していた。 「こ、ここは?」 「兄貴の部屋」 「…ああ、トシにい」 俺には、7歳上の寿生(トシオ)という兄貴がいる。市内の会社に勤める社会人で、実家から自転車で30分ほどのこのマンションで一人暮らしをしている。 弟の俺は小町と呼ばれた母親に似たが、母親と付き合っているとき野獣と噂されていた父親に瓜二つの兄貴はさほどイケメンではない。だが、冷たい印象の弟と違って警戒感を抱かせない愛嬌のある顔立ちに、マメな性格と人当たりの良さで凄まじくモテた。中学1年で出来た最初の彼女を皮切りに、24歳になった今の恋人まで途切れたことはほとんどない。狙った子は百発百中で落とせるという自惚れのせいか、女には少々だらしなく、浮気がばれて実家に乗り込まれ家族を巻き込んでの修羅場になったことも一度や二度ではない。そんな自分の奔放な男女関係を幼い頃から見ていたため、弟が固い男になってしまった、と兄貴は責任を感じているらしい。 マンションを借りて以来、なにかとここを使っていいと言ってくる。実家には誘いにくい彼女を、ここになら連れ込めると言いたいらしい。だが、中3の時に部活の同級生たちと野郎ばかりの卒業パーティーを開いたくらいで、まだ一度も兄貴の期待したようなこのへやの使い方をしたことはなかった。 今日も、週末は彼女と旅行に行って留守にするからぜひ使え、と言って出かけたが、まさか男を連れて来るとは思いもしないだろう。 兄貴の部屋とはいえ、こんなマンションに連れ込まれた意図が分からずオロオロしている廉をソファーに座らせ、自分はキッチンに行った。食器棚からグラスを出すと、冷蔵庫の烏龍茶のペットボトルとともにリビングに運んだ。座卓にグラスを置き、お茶を注いでいる間も、廉は落ち着かない様子でもじもじしていた。

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