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第9話

テーブルを挟んで廉の向かいに座り、烏龍茶を一口飲んだ。 廉は時折こちらを見るが、グラスに手を出すこともなく、うな垂れて座っていた。 「俺は…」 おもむろに口を開くと、廉が弾かれたように顔を上げた。 「長いことお前のそばにいたのに、お前の気持ちに全く気付かなかった」 「い、いや、それは…」 廉が慌てて言い訳しようとするのを手を上げて制し、続けた。 「こんな無骨な俺にお前は友情以上のものを感じ、あまつさえ欲情すらするらしい」 しゃべりながら見ていると、廉は見る見る赤くなって、どんどん身体を小さく縮こまらせた。筋肉の隆々とした図体の大きな男が、俯いて肩を落とし、なんなら小刻みに震えてすらいる、という風景は、見るも哀れで痛々しい。 「信じられない!」 情けない廉の様子にイラついて、つい大きな声を出した。廉はビクッと身体を揺らし、頭をプルプルと横に振った。そんな廉に畳み掛けた。 「まさかこの俺が、お前のこと前向きに考えてもいいと思うようになるなんて!」 「…へ?」 涙もろい廉は振られると思い込み、すでにぼろぼろと涙をこぼし、みっともないことに鼻水まで垂らしていた。その百年の恋も冷めようかという汚ならしい顔をこちらに向けて、小首を傾げた。 「ごつい男がブリっ子しても、キモいだけなんだよ!その汚い顔をさっさと拭けっ!」 自分の恥ずかしい告白に動揺して、廉を怒鳴りつけてしまった。 「よ、慶生、今なんて」 タオルで顔を拭いながら、廉がテーブルに身を乗り出してきた。 「聞こえなかったんなら、やっぱりいい…」 「聞こえた!」 テーブル越しに廉に手首を掴まれて、今更ながら、背筋が寒くなった。俺の顔から血の気が引いたのが見えたのか、勢い込んで手首を掴んだ廉のテンションが見る間に下がった。

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