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第10話
「急に…好きだなんて言ってゴメンな。一生言うつもり無かったんだけど」
手首を掴んだまま話し始めた廉を、身構えたまま見つめた。
「映画を観たんだ。お袋がレンタルしてきて、台所のテレビで観てたとこにたまたまアイス取りに行ってさあ。じいさん二人が死ぬ前にやりたいことやる、みたいな映画だった」
「へえ?」
「じいさん達は余命宣告されてて、死ぬまでにやりたいことリストを作るんだ」
「…」
「俺、それ観ながら考えてた。俺が死ぬ前にやりたい事って何だ?って」
手首を掴む指に力を入れて、呻くように言った。
「お前に好きだと言いたい。…それしか思い浮かばなかった」
「廉…」
何か言わなくては、と口を開こうとした瞬間、ピンポーン、とドアのチャイムが鳴った。
廉が驚いて手を離した隙に立ち上がると、逃げるように玄関に向かった。
廉をリビングに通し、キッチンでお茶を入れている合間に注文したピザが届いた。ピザの箱を持って部屋に戻ると、廉はまた俯いて座り込んでいた。
「廉、腹減ったろ。ピザ食おうぜ」
ピザの箱を掲げて努めて明るく言ったが、廉はゆっくり頭を振ると立ち上がった。
「俺、帰るよ」
「え?」
「忘れてくれよ。告白したことも、今言ったことも。お前に迷惑かけるつもりはないんだ…」
バチン!!
思わず、廉の頬に張り手をかましていた。
「いっ…てえ…?」
廉はなぜ叩かれたか分からず、頬を押さえて戸惑っていた。
「お前、さっき俺の言ったこと聞こえたって言ってたじゃんかよ!」
「え?」
「お前とのこと、前向きに考えてもいいって」
「慶生、無理をしなくていいんだ」
「無理って」
廉が寂しげな微笑みを浮かべて言った。
「同情なんていらねえから、…キモいこと言っておきながら虫のいい話だけど、今まで通り友達として付き合ってもらえたら、もう、それで…」
勝手に完結しようとしている廉に、地団駄を踏みながら、俺はキレそうになった。
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