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第15話
「俺が今日お前をここに連れて来ようと思ったのを、お前は知らなかったはずなのに、なんでローションなんか持ってんだよ!」
廉の胸ぐらを掴んだ手に力を入れ直して、低い声で問い質した。廉は何を勘違いしたのか、恥ずかしそうに頬を染め、目を伏せて小声で答えた。
「いつ、何があってもいいように、準備はちゃんとしている」
「くっ!!照れながら怖ーこと言ってんじゃねえ!」
小学校の遠足で、山道で転んですりむいた俺の膝小僧に、リュックから取り出した絆創膏を貼ってくれたのは、先生でも女子でもなく、廉だった。中学時代、一緒に映画を観に行ったときも、アクション大作という触れ込みの作品が思わぬ感動巨編でもあり、つい涙ぐんでしまった時も、綺麗にアイロンのあたったハンカチを貸してくれた。
廉の周到な準備は、多くが俺を念頭において行われていることは、かなり前から薄々わかってはいた。今日のローションも、俺の身体の負担を思ってのことだろう。
だが、いつでも行けるように準備していたことと、俺に一方的に突っ込むつもりになっていることには納得がいかなかったし、そこはかとなく恐怖を感じて、声が上ずってしまった。
「とっ、とにかく、尻に手を突っ込むのはやめろ!」
「…わかった」
廉は諦めたようにため息をつくと、俺の手を離した。俺も、奴の胸ぐらを掴んでいた手を緩めた。
「急ぎすぎだよね」
肩を落としてしおらしく言う廉の姿が、ヤンチャしすぎて叱られて耳もしっぽも垂らして落ち込んでる大型犬とダブった。ゴールデンやラブラドールなレトリバーたちの潤んだ瞳で見つめられて、何もかも許してしまえない人間がいたらお目にかかりたい。意気消沈している廉に同情心がこみ上げてきて、自分でも思わぬことを口走ってしまった。
「し、尻に妙なことをするのは無しだ。何か他のことを…」
言い終わらないうちに廉の目がキラキラしてきて、俺は自分の浅はかで迂闊な発言を心底後悔した。
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