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《Background》
◆
──時を少し遡り、佑月をホテルから救出してからの二時間後。
須藤は自室のベッドで、気を失ったまま眠る佑月を、飽きることなく眺めていた。
男のくせに白く陶器のように美しい肌。仄かに赤く色づく唇に、僅かに上気した頬。女よりも色気があり、ルックスだけでも極上ものだ。
だが須藤が気に入っているのは勿論、外見だけではない。そもそも他人にここまで興味を引かれたのは、須藤にとっても初めてだった。
理性をも簡単に失わせる男。何としてでも手に入れて、傍に置いておきたいと思った。
こんな感情が自分にもあったのかと、初めこそは驚いたものだったが、今では妙に納得していた。
涼しげで意思の強い瞳が閉じられた美しい寝顔。大切な宝に触れるように、須藤は佑月の頬にそっと触れ、優しく撫でていった。
「う……ん」
身動 ぐ佑月に、起こしたのかと手を離した時、須藤のスマホが着信を知らせてきた。スーツの内ポケットから取り出したスマホを耳に当て、ベッドから離れる。
「見つかったか」
『はい。外にお車を待機させてます』
「分かった。すぐに出る」
通話を切り、佑月が寝ていることを確認してから須藤は部屋を出た。
外に出ると湿気を多く含んだ空気がまとわりついてくる。その陰気な空気に須藤は眉間にシワを寄せた。
「滝川」
体格のいい須藤の部下、滝川は名を呼ばれると背筋を正した。
「はい」
「後は頼んだぞ」
「かしこまりました」
滝川には佑月の護衛を任せる。
護衛といっても部屋に入るわけではなく、マンションの外からの見張りだ。
万が一佑月が目を覚まして、外に出て一人で行動しないようにするために。仮に目を覚ましても、ある事情で外には出られないだろが、念のためにと須藤の過保護ぶりが見られる。
滝川が頭を下げている中、真山が後部座席のドアを開けると、須藤は直ぐに乗り込む。
「ボス、少し厄介なことに」
「……分かった。着いた時に詳しく聞く。とりあえず急げ」
「かしこまりました」
真山は静かにアクセルペダルを踏み込んだ。
三十分程で走り着いたのは隣の区。
夜の街は若者らがたむろし、猥雑とした雰囲気に包まれていた。そこを少し抜けると人の姿もなくなり、陰鬱とした空気で淀んでいるのが嫌でも肌に沁みる。
一棟の廃ビルの前に車をつけると、直ぐに真山は後部座席へと回り込みドアを開けた。
「ここか」
「はい。三階です」
須藤は直ぐにビル内へと足を踏み入れる。
エレベーターは作動していない為、階段から。静寂を破るように響く二つの靴音。
それを聞きつけて、見張りで立っていた男が素早く踊り場へと駆け付けてきた。
「須藤様、こちらです」
恭 しく頭を下げてから、須藤の部下は部屋へ案内すると、ドアを開けた。
目に飛び込む光景に、須藤は眉を僅かにひそめる。佑月の事務所とさほど変わらない広さの一室に、男が四人と倒れている一人の人間。その倒れてる一人からは〝生〟が感じられない。死んでいるのが明白だった。
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