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《Background》 2

「さて、説明願おうか」  須藤は煙草を口に咥え、四人を見渡してから火をつけた。一人は須藤の部下、そして今回の取引相手だった組織側の人間が二人。残り一人は運び屋。  佑月を襲った人間を追っていただけの話が、なぜ運び屋と取引先の人間がいるのか。 「須藤さん、これが〝僕たち〟の仕事を邪魔した犯人ですって」 「なに?」  運び屋の男がつまらない物でも見るかのように、床に転がる男を軽く足で突いた。それを一瞥だけした須藤は、運び屋に視線を戻す。 「こちらのね、葉山組のお二人が偶然犯人を見つけて」  首を切るジェスチャーをして、運び屋は須藤に妖艶に微笑んだ。  その微笑みを向けられた者は、暫く見惚れてしまうほどに運び屋の男は、中性的で美しい顔立ちをしている。だが須藤はそれを軽く流し、葉山組の構成員二人に視線を向けた。 「どういうことだ」 「は、はい。オレたちはここで薬の取引をするために来たんですが、実はこの男のほかに後もう一人居たんです。その二人が慌てて逃げ込んできた様子だったので、姿を見られるわけにはいかないオレたちは一旦隠れました。そしたら……兄貴の名前が出てきて……。殺っただのどうのと、急に揉め出したのを聞いて……」  おずおずと答える、まだまだ若い衆。須藤を前に少し緊張しているのが分かるくらいに。 「そのもう一人は何処に行った。ここにはいないようだが?」 「それが……オレたちが飛び出した時には、この男しかいなくて」  逃げられたということだと、須藤は溜め息をつきながら、煙草を靴で踏み潰した。 「この取引場所はお前らが指定したのか?」 「い、いえ。先方からです。初めての取引先だったのでオレたちも慎重になってましたよ」  随分と偶然が重なるものだと須藤は少し鼻で笑い、遺体に目を遣った。 「須藤さん、もしかしてこの男知ってるんですか?」  運び屋は、くっきりとした二重瞼の色気のある目で、上目遣いに須藤を見上げてきた。 「あぁ、別件でな」 「別件……」  須藤の腕にそっと触れる運び屋。  いつでも須藤に触れたがる運び屋に、須藤は一瞥だけする。それを面白くなさそうに運び屋はその手を離した。 「この男、桐山 吾郎は調べたらただの会社員だ。可笑しいとは思わないか? ただの一般人が突発的だったとしても、極道者を手にかけるなんてな」 「……そうですね。確かに可笑しいけど、色々あったんじゃないんですか」 「色々とはなんだ」  須藤の問いに運び屋は小首を傾げる。いい歳した男がする行為ではないが、この男がすると不自然さはない。 「うーん……例えば松山さんに恨みがあったとか?」  松山というのは、須藤の取引相手であった男の名だ。 「恨みね。お前にしては陳腐な考えだな」 「フフ、だって僕としては、どうだって良いことですし。こうやって犯人は死んでくれてるわけですし。一件落着でしょ?」 「お前にとってはな。だが、もう一人の男の素性が分からないのも可笑しな話だ」 「へぇ……須藤さんでも分からない事ってあるんですね」  運び屋が飄々(ひょうひょう)と答えるのに、須藤は目を細める。

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