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ジェラシー

◇  あのレイプ事件から一ヶ月半が経つ。  その翌日のテレビに飛び込んだニュースに、佑月はショックを隠せずにいた。佑月を襲った男、桐山 吾郎が海で遺体として上がったと報道があったのだ。  昨日の今日で、一体何があったのか。  しかも犯人は少年グループ。その少年グループの三人が自首する形で実行犯として捕まったが、あまりにも唐突すぎて佑月は信じられなかった。  佑月ももちろん桐山に関わっていたことで、警察に事情聴取をされたが、やけにあっさりしずきていた。殺しなら普通、根掘り葉掘りと聴取され、しつこいものなのに。  これはきっと、須藤が裏で糸を引いていたのだろうと佑月は思っていた。それなのに、須藤はこの件に関しては関与していないと双子から聞いたのだ。  なら別ルートしかないがと色々納得出来ず、須藤に詰め寄ったりしたが、まともに取り合ってくれることはなかった。 「本当に……後味の悪い事件だったよな……」  誰もいない夕方の事務所内。佑月の独り言がむなしく響いていく。 「おーっす! いるか? my sweet honey!」  そんな陰気な空気を破る陽気な声。佑月は驚きながらも入り口のドアを見る。  まず真っ赤な薔薇の、大きな花束が目に入り。そしてスーツを身に付けてはいるが、普通の会社員でないことは一目瞭然の、いかにも〝夜〟の格好をした男がそこにいた。  軽やかな足取りで佑月のデスクまで来ると、男は佑月の腕を取って立たせた。 「あいっかわらず、いつ見てもとんでもねぇ美人だな! 色気もヤバいくらいに増したんじゃないのか?」 「う……くるし……」  外国人ばりの抱擁で、きつく抱き締められ、佑月は男の背中をタップした。 「あぁ、悪い悪い」 「……いいけど、相変わらずなのは颯も一緒だな」  佑月にそう言われると、男の綺麗に整った顔は可笑しそうにくしゃりと破願した。  別に久しぶりに会うわけでもないのに、いつも熱烈な再会を演じるこの男は、大学時代の唯一の親友、皆川 颯(みながわはやて)。  大学を出ておきながら、颯は夜の仕事、ホストになった。何でも恩がある先輩からの誘いで、無下に出来なかったらしい。  いずれ会社を設立すると、経営学に励んでいたのに、もったいないとは思ったが、どうやら将来的には店を持つ夢があるようで、佑月は陰ながら応援している。 「あれ? アイツらは?」  狭い事務所内を見渡してから、颯は来客用ソファに腰を下ろした。 「陸斗らは仕事なんだけど、ちょっと遠くてな。直帰させたよ」 「そかぁ、残念。花ちゃんのために用意した花だったんだけど、ユヅにやるよ」 「ハハ……そりゃどうも」  これで一体いくらするんだ、と佑月は薔薇の花束を受け取り、とりあえず応急的に適当なビンに水を入れて、花束を差した。せっかくの薔薇が台無しだ。 「あ、この間のテレビ見たぞ。相変わらず凄い人気だよな」 「お、見てくれたのか! いや~人気になんのは、もち嬉しいけどさ結構大変なんだぜ?」  足を投げ出して、ネクタイを弛める颯は、セリフとは裏腹に楽しそうな表情をしていた。

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