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ジェラシー 5
「そんなに怒るな。言葉のあやだろ。それとも恋人と言った方が良かったか?」
佑月の手首を掴むと、須藤は強引に引き寄せ、腕の中に閉じ込める。
「言葉のあやって……。そ、そもそもあんたの恋人じゃないんですが」
「いい加減、早く受け入れろ」
「む、無理だって」
そんな押し問答を車内でしていたが、佑月はあっという間に須藤の部屋のベッドへと押し倒されていた。
あれ以降、二度目の部屋。
「無理じゃないだろ?」
須藤は佑月に跨がった状態で、スーツの上着を脱ぎ捨てる。
須藤が前に言っていたように、本当に嫌なら付いて来なくていい話。それなのに、佑月は今ベッドの上にいる。
須藤に歯向かうのが、怖いからだけじゃなくなってる証拠ではないのか。
そんなことを思い悩んでる佑月を余所に、須藤は流れる動作で、佑月のスーツのボタンを外していく。
「ちょっと待っ……」
その手を阻もうとするが、それよりも早くワイシャツのボタンまで外されてしまう。そしてその手は佑月の白い肌を滑っていく。
ビクリと反応してしまい顔を逸らすが、直ぐに顎を掴まれ正面へと戻されてしまう。
「これならお前は拒まない」
須藤は啄むように軽く唇を重ねてくる。
「それは──」
ペロリと唇を舐められ、佑月は思わず言葉を飲み込んだ。
「もう、思い出すこともなさそうだしな」
須藤は佑月の頬を撫で、囁くように言う。その須藤の言葉に、自分がすっかりそれを忘れていた事に気付いた。
〝ムカつく須藤〟のことで、頭をいっぱいにされたあの日から……。
「ええ、お陰様であんたの思惑通りですよ」
「俺のことで頭がいっぱいだってことか」
須藤は満足そうに口の端を上げると、そのまま佑月の首筋に唇を滑らせていく。
「っ……言っておきますけど、〝ムカつく〟が付きますけどね」
そう言ってやると、須藤は佑月の鎖骨に唇を落としながら笑った。
その擽ったさに佑月は身を捩りながら「あの人は……」と自然と口を開いていた。
須藤はそんな佑月の様子に愛撫をやめて、佑月を上から見下ろす。だが佑月は焦点が合わない目で、遠く眺めるようにして、須藤とは目を合わせなかった。
「俺を抱いたりはしなかった……」
「成海?」
須藤が心配そうに佑月の顔を覗き込む。
「それは分かりましたよね?」
ここで佑月は須藤と目を合わせた。
須藤は目が合ったその目を少し細めて「あぁ、そうだな」と佑月の隣へと横になる。
「お前に触れた時、キスの時のような拒絶反応がなかったからな」
「ええ……あの人は、俺の機が熟すのを待ってたから……」
「成海、俺が言い出した事だが、無理に話さなくてもいい」
須藤が気遣うように言うが、佑月はゆっくりと首を振った。
まだ誰にも、陸斗や海斗にさえも話した事がない嫌な過去。口にも出したくないもの。だけど、こんな話をして須藤が引くならそれでもいいんじゃないかと、佑月は口を開いていた。
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