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ジェラシー 6
「あの人が初めて家に来たのは、俺が小学三年の時。母が嬉しそうに俺に紹介してきたのを、昨日のことのように鮮明に覚えてますよ」
「確かお前の母親は、高級クラブでホステスとして働いていたな」
さすがによく調べている。
「ええ。俺一人を養う為に、かなり無理してたと思います。そこであの男と客として出会ったみたいです。母は当時二十八で、あの人は三十代半ばくらいだったと思います」
稀代 の美女とまで言われた佑月の母親は、佑月自身も子供ながら綺麗な人だと思っていた。
須藤は相手の男について知っているだろうが、触れてくる気配がない。その方がいいが。
「だけど……初めて会った時から、あの人の俺を見る目が違うって、小さいながらもその異様さには気付いてた」
いつでも舐めるように佑月を見ていた男。
話し掛ける時もわざと身体を密着してくるのが分かり、本当に気持ち悪くて、どれだけ母に言いたかったか。
だが毎日疲れて帰ってくる母親に、余計な心配は掛けたくなかった。それに何よりも幸せそうだったのだ。
あの男も母親を大事にしているのが分かったため、佑月が我慢すればいいことだって気持ちを押し込めていた。
「最初はペドフィルなんじゃないかと思ってましたよ」
「理解し難い嗜好だな」
須藤は嫌悪を抑えることなく、吐き捨てる。佑月もグッと唇を噛みしめ頷いた。
「いや、でもその気 が少しはあったから、あんな……」
「成海」
身震いをした佑月を、須藤はゆっくりと抱き締めていく。
「大丈夫か?」
ポンポンと背中をあやすように叩かれ、佑月はゆっくりと頷いた。
「……はい、大丈夫です」
「〝ムカつく〟俺の顔でも見てろ」
冗談混じりに言う須藤に、佑月は思わず笑ってしまった。根に持っているのか、そうではないのかは定かではないが、須藤のお陰でスッと心が安定していくのが分かった。
須藤の甘くてセクシーな香りにも落ち着くなんて……自分は本当にどうしてしまったのか。そんな戸惑いを払うように、佑月は再び口を開いた。
「それで、母が亡くなったのはそれから二年後でした。元々身体が弱かったこともあって、過労で……。俺が五年生になった夏でした」
須藤は軽く相槌を打って、背中を撫でてくれている。
それからあの男の〝スキンシップ〟が過剰になっていった。母とは籍も入れていないくせに、保護者ヅラをして。普通ならば頼りにしたい大人だというのに、佑月にとっては苦痛以外の何ものでもなかった。
「初めは俺の身体を撫で回すことから始まって……。服の上からでしたが、鼻息が荒く興奮しているのが良く分かるくらいに。本人は早く大きくなるおまじないだとか言ってましたが……」
「おまじないね……」
嘲笑しながらも須藤は、眉間に深いシワを寄せていた。
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