115 / 444
ジェラシー 7
「早く大人になれが口癖のように、会うたびに言われてました」
「会うたび? 一緒には住んでなかったのか?」
須藤がここで初めて話に質問をしてきた。
「一応、あの人が買ったマンションに強制的ですが住んでました。ほら、何かと忙しい身の人だから……」
「……そうか」
眉を寄せる須藤に釣られて、佑月も眉を寄せ苦笑した。
「そして俺が六年になった頃、あの男は次に……キスを迫るようになった」
「……」
嫌がる佑月に『誰のお陰で生活が出来ていると思ってるんだ』と、力と保護者と言う名の権力を使って、佑月を支配した。
まだ小学生だった。恋はまだしたことがなかったが、キスをするなら好きな人という気持ちは、小学生ながらもあった。ませてる子供たちは周りにもいたし、キスくらいならしている子もいただろう。
「だけど、あの男がするものは子供のそれなんかじゃない。濃くてねっとりと、唾液を交換だとか言って、自分の唾液を飲ませてきたり──」
「成海」
「拒絶すれば、わざわざ下着を剥ぎ取って急所を掴んで──」
「成海、もういい」
そう言って須藤は、更に佑月を力強く抱きしめた。
「思い出すだけでも胸が悪いんだ……」
「あぁ、もういいから」
須藤は怒ったような低い声で言った。
それは、あの男に対しての強い怒りに思えた。 須藤の広い胸に押し付けられた耳には、須藤の鼓動がダイレクトに伝わってくる。少し速いその鼓動が。
「須藤さん……」
「なんだ」
須藤の腕から抜けた佑月は、少し上半身を起こして須藤を見下ろした。
そんな佑月の頬に須藤は手を伸ばして触れてくる。
「また……〝ムカつく〟あんたのことで頭いっぱいにしてくれよ……」
そう言った瞬間に、佑月の視界は反転した。
少し冷たい須藤の唇が、飢えから解放された獣のように佑月の唇を貪る。それに応えるのには少々荒っぽいキスだが。
まさか自分がこんな事を口にするなんてと驚いた。でも、なぜか今は須藤にこうしてほしかった。思い出したくもなかった過去を、思い出させたのは須藤。だけど、それを忘れさせてくれたのも須藤。
過去は変えられないけど、須藤に話をしたことによってそれがリセットされた気がして、気持ちが楽になったのだ。
「んん……」
だがそのキスは、少々の息苦しさを感じてくる。呼吸のタイミングが合わず、佑月は徐々に酸欠気味になってきた。
「んー! んん」
限界を感じ、唇を解いてほしくて須藤の腕を必死に叩くと、須藤は不満そうに唸りながらもやっと唇を離した。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!