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ジェラシー 7

「早く大人になれが口癖のように、会うたびに言われてました」 「会うたび? 一緒には住んでなかったのか?」  須藤がここで初めてに質問をしてきた。 「一応、あの人が買ったマンションに強制的ですが住んでました。ほら、何かと忙しい身の人だから……」 「……そうか」  眉を寄せる須藤に釣られて、佑月も眉を寄せ苦笑した。 「そして俺が六年になった頃、あの男は次に……キスを迫るようになった」 「……」  嫌がる佑月に『誰のお陰で生活が出来ていると思ってるんだ』と、力と保護者と言う名の権力を使って、佑月を支配した。  まだ小学生だった。恋はまだしたことがなかったが、キスをするなら好きな人という気持ちは、小学生ながらもあった。ませてる子供たちは周りにもいたし、キスくらいならしている子もいただろう。 「だけど、あの男がするものは子供のそれなんかじゃない。濃くてねっとりと、唾液を交換だとか言って、自分の唾液を飲ませてきたり──」 「成海」 「拒絶すれば、わざわざ下着を剥ぎ取って急所を掴んで──」 「成海、もういい」  そう言って須藤は、更に佑月を力強く抱きしめた。 「思い出すだけでも胸が悪いんだ……」 「あぁ、もういいから」  須藤は怒ったような低い声で言った。  それは、あの男に対しての強い怒りに思えた。 須藤の広い胸に押し付けられた耳には、須藤の鼓動がダイレクトに伝わってくる。少し速いその鼓動が。 「須藤さん……」 「なんだ」  須藤の腕から抜けた佑月は、少し上半身を起こして須藤を見下ろした。  そんな佑月の頬に須藤は手を伸ばして触れてくる。 「また……〝ムカつく〟あんたのことで頭いっぱいにしてくれよ……」  そう言った瞬間に、佑月の視界は反転した。  少し冷たい須藤の唇が、飢えから解放された獣のように佑月の唇を貪る。それに応えるのには少々荒っぽいキスだが。  まさか自分がこんな事を口にするなんてと驚いた。でも、なぜか今は須藤にこうしてほしかった。思い出したくもなかった過去を、思い出させたのは須藤。だけど、それを忘れさせてくれたのも須藤。  過去は変えられないけど、須藤に話をしたことによってそれがリセットされた気がして、気持ちが楽になったのだ。 「んん……」  だがそのキスは、少々の息苦しさを感じてくる。呼吸のタイミングが合わず、佑月は徐々に酸欠気味になってきた。 「んー! んん」  限界を感じ、唇を解いてほしくて須藤の腕を必死に叩くと、須藤は不満そうに唸りながらもやっと唇を離した。

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