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未知の世界

◇ 「本当にありがとうね。この子外なんて行ったことないから、心配で心配で仕方なかったのよ……」 「いえ、そのお陰と言いますか、遠くまで行くこともなく、近くで見つけられたので良かったですよ」 「ええ、ええ。賢い子で良かったわ」  大仰にハンカチで目元を押さえる、いかにもマダムといった佇まいの女性。その腕の中で素知らぬ顔で欠伸をする、ノルウェージャンフォレストキャットという猫種の〝メグちゃん〟。  ライオンのようなたてがみがあるように見え、毛並みも綺麗だ。キリリと精悍な顔つきで賢そうにも見える。その、メグちゃんが依頼主が目を離した隙に外に出てしまい、慌てたマダムが【J.O.A.T】に電話で探して欲しいという依頼をしてきたのだ。  だがパニックに陥っていたマダムは、電話口では何を言っているのかが分からない状態だった。海斗と花は別件で出ていたため、佑月と陸斗の二人で急いで駆け付けたワケだ。 「それにしても貴方、とても綺麗ね。お肌なんて、その辺の女の子よりも綺麗じゃない。ねぇ?」  マダムは佑月の隣に立つ陸斗に同意を求める。陸斗は、まるで自分が褒められたかのように、嬉しそうに頷いている。 「何かいい化粧水でも使ってるのかしら? 是非教えて欲しいわ」 「あ……いえ。化粧水はさすがに」 「まあ! 使ってないのにその美しさなの? 羨ましいわ。何か秘訣があるんでしょ?」 「ひ、秘訣ですか……」  そんなものはない。これはもう、生まれ持った肌質だとしか言えない。 「それもないなんて言わせないわよ」 「いや、本当にないです……」  豪邸での玄関先。  そこでマダムに詰め寄られる佑月。  はっきり言って怖い。 「奥さん、そろそろ我々は次の依頼に向かわなければなりません。ご依頼料金はまた明日にでもご連絡差し上げます」  陸斗がスッと佑月の前に進み出て、マダムに頭を下げる。スマートに矛先を変える陸斗に佑月は助けられた。 「え、ええ……。ごめんなさいね? ついつい長話を。お茶も飲んで行って欲しかったけど、無理そうね」 「はい……。本当はもう少しお話したかったんですが、残念です。ですがメグちゃんがちゃんと戻ってきてくれて、オレらも安心しました」 「ええ、本当に……。ありがとう。また何かあればあなた方を頼らせてもらうわ」 「ありがとうございます!」  佑月らはマダムと猫に見送られながら、ようやく解放され……いや、無事に依頼をこなし、気持ち良く豪邸を後にした。 「陸斗、さっきはありがとな。助かった」  駅に向かう道中、隣を歩く陸斗は何でもないといった風に笑う。 「いえいえ、あのままだと先輩、あのおばちゃんに食われ……話が長くなりそうでしたからね」 (おいおい陸斗。言っておくけど食われるつもりはないからな)  そして暑い中、電車を乗り継いでやっと帰ってきた自分たちの街。 「あれ? 先輩、誰かいますよ」  少し汗ばむ中、事務所が入る雑居ビルの階段を上がっている時、佑月の前を行く陸斗が声を上げた。

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