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未知の世界 3

「そうなんです。彼女、結婚資金をコツコツと貯めてたのに……。きっと悪いホストにハマってしまったんだと思います。いくら考え直すように言っても聞いてくれなくて。だから彼女を説得して欲しいんです。いえ、そのホストが全て悪いんです! だから、そいつがいかに悪い奴なのか、彼女に分からせて欲しいんです!」  余程大切な友人なのだろう。彼女の強い思いはよく伝わった。  しかし、一方的にホストだけが悪いと決めつけるのはまだ早い。  客に金を使わせるのが商売である彼ら。そこに悪意があるのか、否か、その辺りもしっかりと調べなくてはならない。 「お話は良く分かりました。ですが、私共は交渉術を身に付けてるわけではありません。人の心というのは繊細で、気持ちを動かすと言うのは、本当にシビアなものです。必ず上手く説得出来るとは断言できません」 「……そうですよね」  目に見えて村上は肩を落とす。  だが安易に出来ると断言して、もし出来なかった場合、失う信頼は大きい。それは絶対に避けなければならないのだ。 「ですが、我々も出来る事を全力でさせて頂きます」 「では……」  村上は俯きかけていた顔を勢いよく上げる。 「はい。このご依頼承ります」 「あ、ありがとうございます!」  そして佑月に頭を下げた。 「それでは早速なんですが、彼女が訪れているホストクラブの名前などはご存知ですか?」  懐からメモ帳とボールペンを取り出すが、村上の口から出たホストクラブの名前に、佑月は思わず陸斗と目を見合わせた。 「Ciel……?」  Cielは颯がいるクラブだったからだ。 「はい。店はよくテレビにも出てますよ。確かホストの名前は“ケンちゃん”って彼女は呼んでました」 「ケンちゃん……」  颯の源氏名は【美月】だ。  自分の名字である皆川の〝み〟と、佑月の〝月〟をとったとか。 何れにしろ、颯ではなくて良かったと、佑月は胸を撫で下ろした。 「それにしてもcielの名前が出た時はビックリしましたよね」  依頼客が帰った事務所内。  佑月と陸斗は昼食が抜きだった為、もう夕方に近い時間だが、二人でカップ麺を啜っていた。 「うん。まさか、颯が? なんて一瞬頭過ったし」 「ですよね。でも安心しました」 「うん。あつっ」 「大丈夫ですか? 相変わらずの猫舌ですね。フーフーしましょうか?」  茶化してくる陸斗。 「じゃあ、お願いしようかな」  佑月がそう言うと、急にどぎまぎとするから面白い。  強面の人間が頬を赤らめて照れる様は、なかなか見られないものだから、佑月もつい悪乗りをしてしまう。 「そ、それで先輩、どうするんです?」 「うん、あそこには颯もいるし、店長は陸斗らの知り合いだし」  佑月の考えが分かったのか、陸斗は少し渋るような顔をした。 「うーん……確かにそれが手っ取り早いとは思いますが……。それならオレも一緒に行きますからね」 「もちろん。陸斗も一緒なら心強いな。よし、やるか」 「はい!」  こうして佑月たちの新たな任務は動き出した。ややこしい人間が絡んでいるとも思わずに──。

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