122 / 444
未知の世界 4
■
ホストクラブ……男性従業員が女性客の隣に座って接客する飲酒店。
今では行ったことがある、無いは別にして、知らない人間なんてほぼいない世界だ。
女性客に楽しい時間を提供し、気持ちよく金を使ってもらうためにも、ホストは夢を与える。基本的な理念というやつだ。
「うわぁ~……ユキくん本当、綺麗……。あたし、こんなに綺麗な人見るの初めてだよ。カッコいいって言葉じゃおっつかないくらいだもん」
「本当ですか? ありがとー嬉しいです」
「だろ? オレの自慢の弟子だし」
「やだ弟子ってなにそれ! アハハ、美月くん面白ーい!」
各席で各々盛り上がる店内。この席も、もちろん周りには負けるはずもなく。
何故なら、この席はNo.1の美月……もとい颯の席だからだ。そして〝ユキくん〟と呼ばれているのが佑月だ。命名はもちろん颯。
ゆづきの〝づ〟を抜いただけだ。
佑月がなぜユキくんと呼ばれているのかと言うと、今cielに体験入店という形でホストに扮しているからだ。しかもNo.1の席に、ヘルプとして同席させてもらっている。
颯が用意してくれたスーツ。佑月に合わせてくれたようで派手さはないが、ネクタイの絞め具合がユルユルで、佑月は落ち着かない気分だった。
髪も颯に任せて、毛先を少し遊ばせたりして。初めて体験する未知の世界だけに、緊張はするが、少し楽しんでる佑月がいた。
だからと言って、本来の目的を忘れてはいけないが。本来の目的はもちろん、依頼主である村上の友人、川勝 耀子への説得だ。
状況を詳細に知るには内部に入り込むのが一番。その為に佑月はホスト、陸斗は黒服として潜入している。
颯には大まかなことを説明したが、店長にはその内容までは知らせていない。いくら陸斗の知り合いと言っても、佑月らの行為は営業妨害にあたるからだ。その辺は陸斗が上手く話したようだ。
佑月は店内をサッと見渡した。ケンは先輩ホストのヘルプとして席に着いている。
開店前の掃除の時に、ケンとは少し言葉を交わしたが、取り立てて気になる性格の〝クセ〟というものは感じなかった。
颯から聞いた情報でも、ケンは愛嬌があって性格も良く、ホスト仲間とも仲が良いようだ。だからと言って全てを鵜呑みには出来ないが。
川勝 耀子はだいたい二日置きに店に訪れるようだ。今日はその二日目なのだが。佑月は今か今かと、もしかしたらケンよりも待ちわびているかもしれない。
「先輩」
そこへ黒服のユニフォームが妙に似合う陸斗が、佑月に耳打ちをしてきた。
「例の彼女来たみたいですよ」
陸斗の視線を追って入り口に目を遣ると、一見大人しそうに見える女性が案内されているところだった。
そしてヘルプに付いていたケンが呼ばれ、お互いが嬉しそうな顔で席に着いている。あれは確実に今回のターゲットだ。
佑月は陸斗に頷いてから颯に目配せをした。
気づいた颯は軽く頷く。そして颯の席に詫びを入れてから、今度はケンのヘルプとしてその席に向かった。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!