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未知の世界 6

「今日は色々とご迷惑をお掛けしたと思いますが、皆さんのサポートで一日無事に終えることが出来ました。お陰で貴重な体験が出来ましたし、ありがとうございました」  佑月が頭を下げて挨拶をすると、皆は温かく拍手を送る。 「また、ネタに困ったらいつでも来て下さいよ!」 「ありがとう」  ここには佑月は一応小説家を目指してるという名目で来ていた。いわば取材みたいなもの。  本来なら理由などいらないのだろうが、颯がそうした方がいいと言ったのだ。ただの体験入店なら勧誘がしつこいぞ、と言われたら確かにと納得してしまう。 「これ、一応渡しておきます!」 「俺も!」 「あ、ありがとう」  琉聖筆頭に次々と名刺を渡され、佑月は驚きながらもそれを有り難く受け取る。  ふと、周りを見るとケンが居ないことに気付いた。焦った佑月は皆に別れを告げてから、ケンを追いかけた。 「まだ外に出たばかりです」 「そか、よかった」  入り口で待機していた陸斗とともに外に出ると、ケンが何やら驚いた表情で立ち尽くしているのが目に入った。  ケンの視線を追うと、佑月と陸斗も驚きでお互いの顔を見合わせることに。  一人の男がケンに近づく。  それは良く見知った顔。  真山だった。 「岩城さん、こんばんは」 「……あ……は、はい、こんばんは」  いつもながら抑揚のない冷たいトーン。佑月たちに気付いているだろうが、今はどうやらケンに用があるようだ。  そして佑月はその近くに止まるBMWに目を遣った。きっとあの後部座席には、あの男が座ってるだろう。  ボスがわざわざ降りてなどは来ないだろうから。 「もう期限が明後日に迫ってます。用意は出来てますか?」 「あの……それが、まだで……。すみません、お給料は一週間後に入るのでそれまで待って頂くことは……」 「出来ません。こちらの申し出に、貴方はそれを了承しました。違いますか?」 「そうなんですが……」 「金融機関はいくらでもあります。そこから借りる事や、給料の前借りなどいくらでも手立てはありますが?」 (ちょっと待て……まさか須藤から金を借りてるのか?) 「あの、すみません」  いてもたってもいられなくなった佑月は、失礼だとは思いながらも二人の会話に割り込んだ。 「成海さん、こんばんは」  そんな佑月に真山は怒ることもなく、恭しく頭など下げてきた。ケンは困惑したように、佑月と真山の顔を交互に見ている。  それはそうだろう。真山が佑月に挨拶をするのだから。

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