125 / 444
未知の世界 7
「突然の失礼を承知で窺いますが、一体どういう事ですか?」
「成海」
意気込む佑月に、周囲の空気までもが重くなるような重低音の声音が、それを阻む。
BMWの後部座席からゆったりと降りてくる闇の王。真山以外の人間が、その登場に息を呑んだ。
「なんでこんな所にいる」
真っ直ぐに自分の元へ歩いてくる須藤に、足が後退しかけるが、佑月は踏ん張るように足に力を入れた。
「……なんでって、仕事だからです」
(俺の動向をいまだに監視してるんだから、わざわざ聞かなくても知ってるだろうが)
佑月と須藤のただならぬ雰囲気に、ケンは先ほどよりも驚き、息を詰めている。
「もう終わったんだろ? 帰るぞ」
「まだ終わってませんので、帰るならお一人でどうぞ」
腰に絡みつく須藤の腕を引き剥がし、佑月はケンの手首を掴んだ。もちろんそんな佑月の突然の行動に、ケンは驚く。
「え? ユ、ユキさん?」
「ケンさん、今から俺に時間を下さい。陸斗行くよ」
「はい!」
ケンの了承も得ず、佑月はグイグイとケンを引っ張り歩き出す。
「え!? ちょっとユキさん?」
立ち去る間際に須藤にチラリと視線を遣ると、須藤は何とも言い難い表情で佑月を見ていた。
怒ってるのか、呆れているのか。
だが、事の詳細を知るには彼が今は必要なんだ。悪いな、須藤。
「あ、あの~……成海さん、一体どういう事なんでしょうか……」
夜中のファミレス。佑月と陸斗に正面から見据えられ、戸惑いを隠すことなくケンはそわそわとする。一応お互いに本名を名乗りあった。
「突然すみません。あの場にいたら何かややこしくなりそうで……」
乾いた笑いで佑月は適当な言葉を並べる。
「そうですか……。でも正直助かりました」
「あの、何かあったんですか? こんな立ち入った事を訊くのもどうかと思うんですが、あの男は関わるにはちょっと危険な人間です」
ちょっとどころではないが。
「やっぱりあの男はヤクザですか? 何かお二人お知り合いのように見えましたけど」
「いや、ヤクザではないんですけど、以前ちょっと色々ありまして……な?」
佑月が陸斗に振ると、途端に不機嫌そうに「ええ、色々とですね」と答える。
最近は追及してくることはなくなったが、佑月が須藤に会うことはやはりいい気はしてないのだ。でもその陸斗の態度がかえって良かったのか、同士を見るような眼差しをケンは向けてきた。
「そうなんですか……。その、実はオレ……二週間ほど前に、オレの前方不注意であの人の車にぶつけてしまったんですよね」
「え? ぶつけたってあの車に……?」
「はい……」
(あちゃー……マジですか? それで修理に出してたワケだ。それは、察するに余りあるな)
あんな高級車にぶつけた日には……佑月だって頭が真っ白になる。
それからケンこと岩城は堰を切ったように、色々と話してくれるようになった。
「五十万……」
「はい……。それで明後日が期限なんです。真山さんが仰ったように金融機関も考えたんですが、借りる事が何だか怖くて……。前借りも店には迷惑掛けたくないので、どうしようかと考えてる内に期限が迫ってまして……」
今にも泣きそうに岩城は項垂れる。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!