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未知の世界 9
■
そしてその翌日である今日。
佑月は須藤に会う前に、本来の目的である耀子の説得と、依頼者の村上にも事情を知ってもらおうと、岩城には内密で三人で会った。
だがこちらの説得には、耀子は首を縦には振ってくれなかった。
『自分のお金の使い道は自分で決めます。今はケンちゃんの助けになりたいんです。お金も直接渡してるワケじゃないし、恵美子にも心配掛けちゃってるけど、ケンちゃんに余裕が出来るまで、もう少し待ってほしい』
頑なに考えを変えない耀子に、それならばと、佑月が被害者に説得してみることを告げると、二人はホッとした表情を見せてくれたのだった。
そして、佑月は今ラスボス……もとい須藤 仁の事務所にいる。
高層ビルの一室。
佑月が拉致られた時に来たあの執務室。須藤に電話で話があるから会って欲しいと言うと、直ぐに真山が迎えに来てくれたのだが、当の本人である須藤は、人と会ってるため少し遅れるようだ。
ここに来てから、かれこれ一時間以上は経つ。その間 、須藤の部下はお茶菓子やら何やらと、佑月を手厚くもてなしている。初めてここに来たときと、随分と扱いが変わったものだ。
「はぁ……やっぱ、こんな真っ昼間からじゃなかなか時間の都合は難しいか……」
だからと言って夜に会うのは、気が進まない。
「待たせたな」
「っ……」
ガチャリとドアが開く音とその声に、驚きで佑月の肩が跳ねた。それと同時に全身に緊張が走り抜けていった。
須藤は部屋に入ると、スーツの上着を脱ぎ、それをポールハンガーに掛けてから、佑月の元へと優雅な足取りでやって来た。
そんな須藤をじっと見つめながら、バカみたいに緊張している佑月がいた。
目の前に立った須藤は、そっと佑月の顎に手を掛けると上を向かせてきた。
「お前がここに来るのは二度目か」
「……一度目は来たくて来たワケじゃないですけどね」
どうにも須藤の顔をまともに見れなくて、佑月は視線を逸らしてしまう。
「いっ……」
突然グッと須藤に両頬に指を食い込ませられ、佑月の口がタコみたいになる。
「痛いですよ」
須藤の手首を掴んでそれを剥がすと、須藤はフッと微笑を浮かべてきた。
「なんだ緊張してるのか?」
「べ、別にしてませんし」
「そういう可愛い反応をされると、ここで抱いてしまいたくなるな」
「な……」
ここで反応すると余計に須藤を喜ばせることになる。ここは我慢だと佑月は口をつぐむ。
我慢したのにも関わらず、全てを見透かしたかのように、須藤はからかうような笑みを口元に浮かべてから、佑月の対面するソファへと腰を下ろした。
(……なんか負けた気分だ)
「で、話って何だ?」
須藤は長い足を組んで煙草に火を付ける。
そのタイミングで真山が、佑月の冷めたコーヒーを下げ、新しいお茶を二人の前に出すと、丁寧に頭を下げてから、直ぐに部屋から出ていった。
「昨夜あんたが会いに行った岩城さんの事です」
「別にあんなものに会いに行ったワケではない。あれはついでだ」
ついでについて色々ツッコミたいが、それを佑月は我慢する。
「……ついでにしろ、昨日須藤さんが現れてくれたお陰で、こっちは知りたかった確証を得られましたけどね」
「それで?」
須藤は煙が佑月に掛からないように吐いてから、先を促す。回りくどい事を言うなということだ。
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