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未知の世界 10
「では、単刀直入に言わせて頂きますけど、岩城さんの支払い期限をどうにか延ばして頂けませんか? 勝手言ってるのは重々承知してます。ぶつけた側が悪いのももちろん分かってます。ですが、修理費用にしても少し高過ぎると思うんです。ですからどうか、もう少し猶予をお願いします」
佑月は精一杯の気持ちを込めて須藤に頭を下げた。緊張のせいで、空調の効いた部屋でも嫌な汗が流れ落ちていく。
「何故お前が他人の為に頭を下げる」
最もな事を言われる。あくまでも被害者は須藤だ。それに岩城には沢山の落ち度がある。任意保険に入っていなかったなど言語道断だし、免許証不携帯で他人の車にぶつかってるのでは世話がないし、自業自得だ。
しかし、岩城が本当に最悪な人間ならば、佑月とて須藤に頭など下げない。自分の不注意で招いてしまった事とはいえ、岩城だってわざとやったワケじゃないのだ。
岩城の負担を少しでも軽減することで、耀子も無理に金を使うこともない。こちら側の勝手な言い分だし、普通ならばこんな話は通らない。だけど須藤ならって甘えた考えがあるのも事実だった。
「それに修理費用を下げろと言うが、あれでも譲歩してる方だ。あのブランドは生産も終了している。部品を取り寄せるにも金が掛かるのは分かるだろ。それに相手がヤクザならこんな金額じゃ済まない」
須藤は煙草を灰皿で消してから、佑月を真っ直ぐに見据えてきた。
「確かに質の悪いヤクザならもっとぼったくられてたかもしれないです。でも……もう少し何とかならないですか?」
「これも一つの勉強代だと思えば安いもんだろ。保険にも入ってなかったそうじゃないか」
(ダメだ。こっちに正当性がないから、何も言い返せない)
「成海、まさかとは思うが、あんな男の依頼で来たんじゃないだろうな」
「違います。別件の依頼で偶然須藤さんに繋がっただけです」
まずいことに、須藤の機嫌が徐々に悪くなっている。
甘えた考えで来たものだから、策など何も考えていなかった。明らかに佑月のミスだった。
「なら、どういう事か説明を聞こうか」
「……はい」
聞いてくれるということは、まだ希望はあるのかもしれない。
佑月は重い口を開くように、今回の事を話して聞かせた。
「ふぅん、なるほどな。だがその女は好きで金を使ってるんだろ? 他人が介入することでもないだろ」
「そうなんですが、でもこのままだと彼女は借金だってし兼ねないです」
「例えそうだとしても、それも女の意思ですることだ。強要されてるわけじゃあるまいし」
「それもそうなんですが、彼女の負担を少しでも軽減したいんです」
「勝手な言い分だな」
「分かってます……」
下を向く佑月に、須藤が軽くため息を吐く。
「なら、交換条件だ」
「交換……条件ですか?」
顔を上げると、須藤は何か試すような表情で佑月を見ていた。
ざわつく心臓。
ごくりと佑月は唾を飲んだ。
「あぁ、こういう場では付き物だからな」
「……」
確かに、何もなくこちらの言い分を聞いて貰うというのは虫がよすぎる。何を条件に出されるのか、恐くないと言ったら嘘になる。だがここはもう、そんなことを言ってはいられなかった。
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