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未知の世界 11

「お前の一夜を貰おうか」 「い、一夜……?」  目を見開く佑月に映る須藤の顔は、いつものようなからかうと言ったものはなく、逆に無表情過ぎて不気味なものだった。  それほどまでに須藤は真剣に、佑月を試しているのだろう。 「それがどういう意味か解るな? お前を──」 「分かりました」 「……なに? 分かっただと?」  一瞬驚きの表情を見せた須藤はすぐに眉を寄せる。  何故こんなにもスムーズに答えたのか。そんな自分に驚きながらも佑月は拳を握りしめ頷いた。 「はい。ちゃんと意味も理解してます」 「どういうつもりだ」  怒っている。自分で出した条件のくせに。 「どういうつもりって、あんたが出した条件を飲むって言ってるんです」 「そうじゃないだろ。お前はこんなちっぽけな依頼で自分を犠牲にするのか」  須藤は珍しく語気を強める。  こんなに怒るなど、佑月は正直驚いた。 「あんたからしたら、ちっぽけかもしれないけど、俺にとっては受けた依頼は大事な大事な仕事なんだ。それに俺は自分を犠牲にしているつもりはないですから」  しかしここで須藤が怒ったお陰で、佑月の気持ちが少し楽になったことは否めない。  何故なら、それは少なくとも佑月への思いやりがあるからだ。己の欲求の為だけなら、わざわざ須藤が怒る必要はないはずだから。  須藤は数秒ほど佑月を睨め付けるように見てから、重いため息を吐いた。 「本当にいいんだな」 「はい。男に二言はないです」  毅然として佑月が言うと、ここでやっと須藤は口元に笑みを作った。 「分かった。期限は二週間延ばしてやる。修理費用も三十万だ。それ以下はない」 「あ、ありがとうございます!」  その譲歩に佑月は思わずソファから立ち上がり、須藤に頭を下げた。三十万と言っても、決して安くはない金額だが、五十万のことを思うとかなりの減額だ。 「俺は明日から一週間、日本にいない。その間無茶な事は絶対にするな」 「しませんよ……」  どうせ、須藤が居なくても佑月の行動は監視させるだろう。まあ、もし何かあっても須藤は直ぐには駆け付けられないが。 「どうだか。とりあえず一週間後帰ったら直ぐにお前を迎えに行く。分かったな?」 「はい……。分かりました」  須藤は次の仕事が入ってるため、直ぐに執務室を出て行った。  佑月も後を追うように、「送ります」と言う須藤の部下の好意を振り切って、一人事務所へと帰った。  それにしても一週間も日本にいないとなると、変に顔を見なくて良かったのかもしれないが、まさかこんな形ですることになるなど佑月も思いもしなかった。しかもあれだけ葛藤して、ムリだって思っていた事をだ。  だが、まるっきり初めて触れられるワケじゃない。一応際どいところまでヤられたわけだから、その延長だと思えばいい。 (……ダメだ。今は考えない方がいいかもしれない)  条件を飲んだのは紛れもなく佑月自身だ。 ──腹を括るしかないんだよ……佑月。

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