129 / 444
未知の世界 11
「お前の一夜を貰おうか」
「い、一夜……?」
目を見開く佑月に映る須藤の顔は、いつものようなからかうと言ったものはなく、逆に無表情過ぎて不気味なものだった。
それほどまでに須藤は真剣に、佑月を試しているのだろう。
「それがどういう意味か解るな? お前を──」
「分かりました」
「……なに? 分かっただと?」
一瞬驚きの表情を見せた須藤はすぐに眉を寄せる。
何故こんなにもスムーズに答えたのか。そんな自分に驚きながらも佑月は拳を握りしめ頷いた。
「はい。ちゃんと意味も理解してます」
「どういうつもりだ」
怒っている。自分で出した条件のくせに。
「どういうつもりって、あんたが出した条件を飲むって言ってるんです」
「そうじゃないだろ。お前はこんなちっぽけな依頼で自分を犠牲にするのか」
須藤は珍しく語気を強める。
こんなに怒るなど、佑月は正直驚いた。
「あんたからしたら、ちっぽけかもしれないけど、俺にとっては受けた依頼は大事な大事な仕事なんだ。それに俺は自分を犠牲にしているつもりはないですから」
しかしここで須藤が怒ったお陰で、佑月の気持ちが少し楽になったことは否めない。
何故なら、それは少なくとも佑月への思いやりがあるからだ。己の欲求の為だけなら、わざわざ須藤が怒る必要はないはずだから。
須藤は数秒ほど佑月を睨め付けるように見てから、重いため息を吐いた。
「本当にいいんだな」
「はい。男に二言はないです」
毅然として佑月が言うと、ここでやっと須藤は口元に笑みを作った。
「分かった。期限は二週間延ばしてやる。修理費用も三十万だ。それ以下はない」
「あ、ありがとうございます!」
その譲歩に佑月は思わずソファから立ち上がり、須藤に頭を下げた。三十万と言っても、決して安くはない金額だが、五十万のことを思うとかなりの減額だ。
「俺は明日から一週間、日本にいない。その間無茶な事は絶対にするな」
「しませんよ……」
どうせ、須藤が居なくても佑月の行動は監視させるだろう。まあ、もし何かあっても須藤は直ぐには駆け付けられないが。
「どうだか。とりあえず一週間後帰ったら直ぐにお前を迎えに行く。分かったな?」
「はい……。分かりました」
須藤は次の仕事が入ってるため、直ぐに執務室を出て行った。
佑月も後を追うように、「送ります」と言う須藤の部下の好意を振り切って、一人事務所へと帰った。
それにしても一週間も日本にいないとなると、変に顔を見なくて良かったのかもしれないが、まさかこんな形ですることになるなど佑月も思いもしなかった。しかもあれだけ葛藤して、ムリだって思っていた事をだ。
だが、まるっきり初めて触れられるワケじゃない。一応際どいところまでヤられたわけだから、その延長だと思えばいい。
(……ダメだ。今は考えない方がいいかもしれない)
条件を飲んだのは紛れもなく佑月自身だ。
──腹を括るしかないんだよ……佑月。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!