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長い一夜

◇  須藤が絡んだあの依頼は、岩城への猶予のお陰で万事うまく行った。岩城に至っては佑月を〝兄貴〟とまで呼んで、大げさな程に感謝していた。  川勝 耀子も〝ケンちゃん〟の説得をすんなりと受け入れ、無茶な金の使い方はしないと約束したようだ。佑月としては朗報だが、ホストならば普通この様なことは出来ないだろう。自分に不利益になることなど。  改めて岩城という人柄の良さが浮き彫りになった。そのお陰もあってか、依頼者の村上も納得する形となったのだ。 「はい、はい、ありがとうございます! では、失礼します」  今日の依頼も無事に終える事が出来て、達成感と言う名の充実感を得て佑月は電話を切る。 「なぁ~んか、ここ一週間変なんですよね」 「一週間もなのか? 確かに今日来てみれば、なんか空元気というのか何て言うのか……」 「不自然!」  最後には皆で綺麗にハモる。 「おーい、そこ。何こそこそしてるんだよ」  佑月は来客用ソファで固まる四人に視線を遣る。 「颯まで混ざって何してるんだよ」  デスクの上に散らばる書類を片付けながら、佑月は颯を睨むふりをした。 「オレはあれだよ、癒しをチャージしに来たんだ。それなのに来てみれば、ユヅが何か変だしさ」 「変? 何処が? 普通だろ?」  ニッコリと余裕の笑みを向けたのに、【J.O.A.T】メンバーと颯は益々、怪訝な顔付きで佑月を見ていた。 「絶対変だ! それにオレはあの須藤さんとの関係をまだ聞いてねぇぞ」 (ギクリ。今は……その名前は禁句だぞ。颯)  その存在を佑月は考えないように、抹消しているというのに。 「そうなんですよ、颯先輩。今回の須藤の交渉も、あの男がただで聞くとは思えないんです。佑月先輩、絶対ムリを強いられてる」 「だからそれはないって何度も言ってるだろ、陸斗」 「そもそも最近の佑月先輩は頻繁に現れる須藤に文句言いつつ、結局は二人で会ってますよね?」  海斗は不満顔を隠さず言い放つ。 「それは……須藤がうるさいからであって……」 (うわぁ……俺も何だこの返し) 「そんなの、前の佑月先輩なら絶対上手く躱せてますよね」 「だからそれは……」 「もお、いいじゃん! あんた達のはただのやきもちでしょ! 別に須藤さんは成海さんに危害を加えてるワケじゃないんだし」 「なんだと? オレらはなぁ……」  揉め出す四人を尻目に佑月は一人ため息を吐く。せっかく考えないようにしてても、須藤は今日帰ってくる。  結局はこの一週間、ずっと須藤のことで頭がいっぱいだった。これならさっさと済ませていた方が、絶対に良かったとさえ思うほど。ダラダラと日数が(かさ)むほうが、余計な事を考えてしまう。本当に須藤と出来るのだろうか……などを。須藤がどこかで頭を打って、忘れてくれてるといいのだが。そんな都合のいい話はないだろう。  やいのやいのと、終業時間までずっと揉めていた四人は、各々不満そうだったが、やっと帰って行った。

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