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長い一夜 5
シャワーを浴び終えても苛つきは治まらないまま、佑月は用意されていたバスローブを身に付け、須藤の待つリビングへと入る。
佑月に気付いた須藤は無言でソファから腰を上げると、そのままリビングから出て行った。恐らく須藤もシャワーだろう。
「はぁ……やっぱムカつく」
ムスッとした顔で佑月はテーブルに鎮座するルイ13世を目に入れると、当て付けるようにグラスにそれをいっぱいに注いだ。
「うわ……薫りが凄いな」
繊細な花のような薫りがしたと思えば、スパイシーな薫りに変わっていく。
それを一口飲むと、驚くほどに滑らかに喉に流れていく。さすが高いだけはある。佑月はそれを一気に喉に流し込んでいった。
「飲んでなきゃやってられないな」
それから暫くして、須藤が佑月と同じバスローブ姿でリビングに入ってきた。
勝手にブランデーを飲む佑月を見ても須藤は何も言わず、タオルで頭を拭きながらソファに腰を下ろした。それを見た佑月の中で何かがキレた。
「ちょっと、一体何なんだよ!」
佑月は大股で歩いて須藤の前に立つと、須藤の手首を掴み、おもいっきり引っ張った。
そんな佑月にさすがに驚いたのか、須藤は抵抗することなく腰を上げる。
「……成海?」
少し戸惑いが滲んだような須藤の声を無視して、腕を引っ張りながら、勝手知ったる部屋を闊歩すると、佑月はベッドルームへと須藤を連れ込んだ。
「ヤるならさっさとヤれよ! さっきから何なんだよ! 急に素っ気なくなったりとかワケ分かんないんだよ……っ!」
啖呵を切る佑月を、須藤はいきなり腰を抱き寄せた。 驚きながら須藤の顔を見上げると……。
(しまった)
そこにはいつものイヤらしい笑みを貼りつけた、須藤の顔があった。
「どうやら、緊張は取れたようだな」
「……は、離してください。いきなり何なんですか」
腕から逃れようと身を捩ってみるけど、もちろんそれは許してはもらえない。
「あんな緊張でガチガチのお前なんか、抱けないだろ」
「……」
それで須藤はわざと素っ気ない態度を取っていたらしい。佑月の扱いをよく解ってるからこその。
最悪だった。完全に須藤のペース。こんなに翻弄されてしまう自分が情けなかった。
「クソ……」
「お前は本当に可愛いな」
言葉通りに愛でるよう、須藤は佑月の頬に指を滑らせていく。
「馬鹿にしてるでしょ」
「なんで馬鹿にする必要がある」
「……」
何でも須藤の思惑通りに動く自分は、本当に馬鹿だと、佑月は内心で思うが口には出せず黙るしかなかった。
「まぁ、色気のない誘いだったが、せっかくお前から誘ってくれたんだ。朝までたっぷりと可愛がってやるから楽しみにしてろ」
力強い腕で強引に、あのキングサイズのベッドへと連れられる。
「い、いや……ちょ、ちょっと待って。それは、あんたが……」
「さっきの威勢はどこいった? 男に二言はないんだったな?」
ベッドに腰を掛けた須藤は、前に立たせた佑月のバスローブの紐をゆっくりとほどいていく。
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