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長い一夜 15

「自分の物を他人に触れられたくない。例えばお前とかな」  ニヤリと笑う須藤の視線とぶつかってしまい、余計にどぎまぎとしてしまう。それを誤魔化すように、佑月はまだ顎にかかる須藤の指を外して軽く睨むふりをした。 「じゃ、じゃあ掃除も自分で?」 「それは真山が二日に一回掃除にくる」 「そうなんですか……でもちょっと矛盾してません? 掃除をするのに、何も触らずなんてムリじゃないですか」 「真山はその辺はしっかり(わきま)えてる」 「……なるほど」  しかし、真山も大変だ。仕事からプライベートまで面倒を見なくてはならないのだから。  そんな須藤のプライベートな一部分を垣間見た気がして、何だか妙な気分だった。全てが厚いベールに包まれてるような男だから余計に。 「シャワー浴びないんだったら早く着替えろ。誘ってると見なすぞ」 「は? き、着替えます!」  なんで誘ってることになるんだよと、慌てて渡された衣類を広げて、佑月は直ぐに固まってしまった。 「須藤さん!」 「なんだ。大きな声で」  部屋を出ていこうとした須藤を佑月が咄嗟に呼び止めると、怪訝そうな顔で振り向いてきた。 「あの、前のスーツの時もそうでしたが、こんな高いのは頂けません。あのスーツもクリーニングに出したら、ちゃんとお返ししますので」  一見すると普通のスウェットパンツとTシャツに見えていたが、ところがこれも某高級ブランドもの。 「大した値段じゃないだろ。気にするな」 「そりゃ、あんたにとっては大した値段じゃないかもしれないですけど、俺にとっては大した値段なんですよ」  息巻く佑月の元へ須藤が戻ってくる。身を固くする佑月からTシャツを奪うと、それを頭からズッポリと被せてきた。 「返すなら捨てるだけだ。それよりも、早く着替えないとこのまま抱くぞ」 「き、着替えます、着替えます! だから脱がないで!」  スルリと自身のバスローブの紐を解く須藤の手首を、慌てて掴んだ。 「お前に何かを与えてやるのも、俺が好きで勝手にやってることだ。だからお前は何も気にするな」  はい、分かりました。なんて、簡単に言えることではない。だが今は大人しく返事をした方がよさそうだ。 「……すみません。ありがとうございます」  佑月がお礼を言うと、須藤は柔らかい笑みを浮かべて、佑月の頭をグシャリと撫でた。そして部屋を出ていった。 「……」 ……心臓に悪い。  須藤の行動一つ一つに、何故こんなにも鼓動が速くなるのか。 あの表情にしたって、最近二人でいる時は、柔らかい時が多くなった。  あの表情(かお)見ていると……。 「ッ……や、やば、また乙女モード入ってた」  その思考を抹消するべく、佑月は慌てて服を着た。  そして、佑月はまた驚きで固まっていた。  ビシッとスーツで決めている須藤は、少し眉を寄せて呆れたように佑月を見ている。 「そういう顔も悪くはないが……何をそんなに驚いてる」 「いや……だって……」  須藤のマンションの地下駐車場にいるのだが。  輝かしい程にピカピカの一台の高級車の助手席を開ける須藤に、佑月の頭の中は疑問符だらけだった。

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