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長い一夜 16

 真山はどこにいるのかと、佑月は真剣に探してしまっていた。しかも、その車は国産の高級車。須藤のイメージとは真逆のパールホワイトの車体。   「……須藤さんの車?」 「そうだが?」 「じゃあ、まさかとは思うんですが、須藤さんが自ら運転するんですか?」 「何か問題でもあるのか?」 「いえ、別に……」  いつも偉そうに後部座席に座ってる男が、運転する側に回るなんて違和感だらけだ。とはもちろん言えるワケがないが。 「なら、早く乗れ」 「はい……。失礼します」  車内は上品なオフホワイトの革張りシート。  佑月はゆっくりと助手席のシートに身体を預けた。心地よいフィット感がたまらない。  しかも須藤は運転がとても上手い。  高級車ということもあるだろうが、 車体が変にぶれたりしないし、ブレーキの踏み方からアクセルの踏み方まで安定している。  乗り心地は最高だった。  隣で運転をする須藤を佑月が盗み見していると、不意に須藤が笑う。 「なんだ、見惚れてるのか?」 「み、見てませんが?」  熱くなる顔を隠すように、佑月は窓に顔を向けてしまった。これでは余計に見てましたと言っているようなものだ。  セックスをしてしまったことが原因なのか、隣の男が変に気になる。こうしてる今も、異様に佑月の心拍数が上がっているのが分かった。  今さらセックスをしてしまったことは取り消せないが、こんな妙な気持ちになるなど思いもしなかった。だがそれは決して不快な気持ちではなかった。 「どうした? 気分でも悪くなったか?」  信号待ちで肩を引かれて、佑月は思わず須藤へと顔を向けてしまった。すると須藤は一瞬驚いたように片方の眉を上げると、直ぐにフッと口元に笑みを作った。  そして一瞬の隙をついて、須藤がキスをしてきた。 「な、な、何してるんですか! こんな往来で」  慌てて須藤を押し退けて、佑月は周囲に視線を走らせた。フロントガラス以外は、中が見えない程のスモークガラスだが、歩道を歩く人、前の車からはフロントからまる見えだ。 「誰も見てない」 「何でそんなこと分かるんですか! もう、本当最悪……」  早く信号変わってくれと、顔を隠すために佑月が下を向いてると、須藤が声を殺して笑っているのが分かった。 「いい傾向だな」  信号がやっと変わったようで、車が発進したことで佑月はホッとしながらも、不可解な須藤のセリフに顔を上げた。 「いい傾向?」 「あぁ。お前がさっき自分で吐いた言葉。それと表情(かお)がな」 「……?」  さっき言った言葉と、表情(かお)の何がいい傾向なのか、さっぱり解らず首を捻ってると、須藤は佑月の頬を撫でてきた。 「まだ少し時間が掛かるか……。まぁでも今はその表情を見れただけで十分だ」  だからどんな表情をしていたと言うのか。  それよりもまた顔が熱くなり、佑月は慌てて須藤の手を剥がした。

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