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長い一夜 17

 何かは分からないが、きっと須藤はその答えを知っている。それが悔しいが、今はそれでいいんだと何処かで納得させている佑月もいた──。 「わざわざ送って下さり、ありがとうございます」  朝から容赦なく降り注ぐ陽光。 車のドアを開けた瞬間、ジリジリと焼け付くような暑さ。  腰は重いし、尻は痛い。正直、この心地いい車から降りたくないと佑月は思ってしまっていた。 「あぁ。無理はするなよ」 「はい……って、あんたが無茶したせいですよ」  わざと腰をさすって見せると、須藤はまたニヤリと口の端を上げる。 「今日は一日中、俺のことが頭から離れないだろうな」 「ッ……」  口を開きかけたが、佑月は直ぐにその口を引き結ぶ。ここはスルーしてやるのが一番だから。 「では、お気をつけて」  無表情決め込んで車を降り、ドアを閉めようとした時「成海」と中から呼び止める声がした。 「はい?」 「昨夜は最高に良かった。また連絡する」 「……」  一瞬で熱くなる顔。ドアを直ぐに閉めたが、その瞬間に見えた須藤の顔。 ──やられた……。  遠ざかっていく車を、佑月は半ば放心状態で見送る。悔しいやら何やら。須藤といると、眠っている感情もフルに稼働している気がする。  いくら自分を取り繕っても、須藤には直ぐに見透かされる。だが最近では、それが少し楽だと思う佑月がいた。 「はぁ……それよりも、本当に……ヤってしまったんだな」  生々しく甦る須藤の声と、自分に触れる指に唇。きっと須藤の言う通り、今日は一日中須藤のことで頭の中を占められそうだ。  長い長い一夜を終え、佑月はあくびを噛み殺してアパートへと入って行った──。

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