146 / 444
長い一夜 17
何かは分からないが、きっと須藤はその答えを知っている。それが悔しいが、今はそれでいいんだと何処かで納得させている佑月もいた──。
「わざわざ送って下さり、ありがとうございます」
朝から容赦なく降り注ぐ陽光。 車のドアを開けた瞬間、ジリジリと焼け付くような暑さ。
腰は重いし、尻は痛い。正直、この心地いい車から降りたくないと佑月は思ってしまっていた。
「あぁ。無理はするなよ」
「はい……って、あんたが無茶したせいですよ」
わざと腰をさすって見せると、須藤はまたニヤリと口の端を上げる。
「今日は一日中、俺のことが頭から離れないだろうな」
「ッ……」
口を開きかけたが、佑月は直ぐにその口を引き結ぶ。ここはスルーしてやるのが一番だから。
「では、お気をつけて」
無表情決め込んで車を降り、ドアを閉めようとした時「成海」と中から呼び止める声がした。
「はい?」
「昨夜は最高に良かった。また連絡する」
「……」
一瞬で熱くなる顔。ドアを直ぐに閉めたが、その瞬間に見えた須藤の顔。
──やられた……。
遠ざかっていく車を、佑月は半ば放心状態で見送る。悔しいやら何やら。須藤といると、眠っている感情もフルに稼働している気がする。
いくら自分を取り繕っても、須藤には直ぐに見透かされる。だが最近では、それが少し楽だと思う佑月がいた。
「はぁ……それよりも、本当に……ヤってしまったんだな」
生々しく甦る須藤の声と、自分に触れる指に唇。きっと須藤の言う通り、今日は一日中須藤のことで頭の中を占められそうだ。
長い長い一夜を終え、佑月はあくびを噛み殺してアパートへと入って行った──。
書籍の購入
ともだちにシェアしよう!