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夏の終わりに 2

 そして鞄からスマホを出し、起動させた画面を見て佑月は溜め息をこぼした。 「今日も無しか……」 「何か仰いましたか? お客様」 「い、いえ……何も」  暗くて良かった。  何となく今は、誰にも顔を見られたくない気持ちだった。  この一週間のクセとでも言うのか、着歴を確認しては勝手に沈んでいく。  今までさんざん振り回してたきたくせに、連絡もするって言っていたくせに、急に音信不通とか、一体どうなってるのか。  だが、このまま須藤が離れていくなら、それはそれでいいのかもしれない。ずっと佑月が願っていたことだ。  そう思うのになぜ、こんなにも憂鬱な気分になるのか。  部屋に入った途端に、佑月は直ぐにベッドへと倒れ込む。 「須藤の……バカ野郎……自己中男」  枕に顔を埋めて、あの傲慢男を罵る。そうでもしてなければ、どんどん卑屈になっていく気がしたからだ。  そして佑月はそのままふて寝した──。  翌日、二日酔いで頭がすっきりしない中、佑月は列車に揺られていた。  帰省ラッシュで混んでる車内。  佑月が今住む千代田区から目的地までの区間、約十五分くらいの道程。たった十五分にも思える時間だが、佑月にとっては結構キツイものがあった。  何故なら佑月は、男のくせに列車内でよく痴漢にあってしまうからだ。こういう混んでる時は、かなり注意が必要で神経も使う。だけど、そんなキツイ中でも佑月には帰りたい場所があったのだ。 「はぁ……やっと着いた……」  何とか魔の手から逃れられた佑月は、都内の喧騒から離れ、緑が多くてリフレッシュするには最高の地へと足をつけた。  駅から少し歩くと飲み屋などが軒を連ねる通りがある。そこに並び立つ、ある一軒の小料理屋の前に佑月は立った。 「あれ? 暖簾がない……。確か盆休みは明日からだよな?」  とりあえずと軽く深呼吸をして、暖簾のない引戸を開けた。 「ただいま……」  こじんまりとした店内は、カウンター内からの光が漏れているだけで、とても頼りない明るさ。その中で仕込み中もあり、顔も上げず、ぶっきらぼうだが「おかえり」と言ってくれるこの店の店主がいた。  その様子に自然と笑みがこぼれ、佑月は戸を閉めると中へと入った。 「まあ、佑月くんおかえりなさい! 待ってたわよ」  中から笑顔で出てきたここの女将。  この柔らかい笑顔にいつも佑月は癒されていた。 「ただいま香住さん。そう言えば今日は店休み?」 「ううん、違うわよ。半年程前からお昼はやめて夜だけにしたのよ。最近じゃお客様の入りが少ないのよ。ね? あんた」 「あぁ。そんなことより、佑月いつまで突っ立ってるんだ。早く中に入ってくつろげ」 「あ、うん、ありがと。また後で手伝うよ」  お言葉に甘えることにして、佑月はとりあえずと荷物を二階の部屋へと運んだ。  一年に一度しか帰って来ないのに、佑月の部屋はいつ来ても綺麗だ。  暑さで籠った空気を、窓を開けて循環させてやると、ここらは車通りもないから、新鮮な空気は暑くても清々しく感じる。  ここ小料理屋【小雪】は佑月が高校からの学生時代、とても世話になった所だ。  あの男の家にいるのが堪えきれなくなっていた佑月は、中学を卒業するとともに、僅かな荷物を手に家を飛び出していた。  行く宛もなくフラフラしていたせいで、数人の男に囲まれ、危うく何処かに拉致されかけていた。そこを買い出し中だった店主の昌樹に、助けてもらったのだ。

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