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夏の終わりに 4

 〝我が子も同然〟こんなに嬉しい言葉ってあるだろうか。居心地があまりにも良かったため、大学の時に一人暮らしを始めても、結局は大半をここで過ごしていた。かなりの厄介者だっただろう。  そんな佑月を、我が子のように思っていてもらえていた。無上の喜びと言える。この二人を一生大事にしていかないと。 「私たちは最高のを貰ってるの。だからそれは自分のために使いなさい。これからは仕送りはいいから、毎年ちゃんと帰ってくるのよ?」 「……は……い」  ついには堪えきれない涙が、大粒の雫となってこぼれ落ちていった。  声を殺して泣く佑月を、香住はそっと抱きしめてくれた。  夜の営業時間。  今日は居酒屋なみの熱気に溢れている。 「やっぱり佑月ちゃんがいると、酒も百倍美味くなるなぁ」 「だな! 年々べっぴん度が上がってるもんなぁ!」  ガハハと大きな笑いが狭い店内に響く。  開店前には沢山の常連客が詰めかけ、店内に入れない人たちは外で待っている。  一年に一度帰ってくる佑月のために、みんなわざわざ集まるのだ。これも毎年恒例のこと。  佑月はせっせと昌樹と香住を手伝いながら、訪れてくれたお客さんの相手をする。それは深夜遅くまで続いた。 「はぁ……さすがに疲れた……」  風呂から上がった佑月は、部屋に敷かれた布団の上で仰臥(ぎょうが)する。  そしてふと自分の鞄に目をやった。今日は一度も見ていないスマホ。佑月は無精をするように寝転びながら、鞄を手繰り寄せた。  スマホを出して、画面を起動させる。 「……」  颯と双子からライ◯が来てるだけで、着信などは何もない。   「本当に、もう切れたのかもな……」  考えることを封じ込めるように、佑月は布団を頭から被った。 「もう、忘れるしかないんだ……」  痛む胸に気付かないふりをして、佑月は布団の中で身体を丸めた……。

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