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夏の終わりに 10

 盗み聞きをするワケではなかったが、自然と耳に入る。佑月はそっと須藤を見る。相変わらず無表情で何の感情も読み取れない。 「泣いていては分からない。あぁ。先に杉崎に言ったのか? 何でだ──」 「……」  聞いてはいけない気がして、佑月は財布を手に持ち、こっそりと部屋を出た。  表情は無いくせに、声音は意外と優しかった。邪険には扱ってないという証拠だ。  そう言えば、須藤が自分と会ってる時以外はどんな感じなのかなど、全然知らないと思い至る。知っているのは、佑月をからかうのが好きということと……スケベなところ。  真山は佑月と居る須藤は楽しそうだと言っていたが、須藤は普段から楽しいことが何もないのだろうか。もしそうなら、それは結構寂しかったりする。 「おっと、すみません」  考え事をしながら、売店で酒の肴を選んでいた佑月の背中に軽い衝撃があった。 「あ、いえ」  特に相手の顔を見ず答えると「あれ? もしかして成海?」と佑月の名が呼ばれた。ここで初めて相手の顔を見て佑月は驚いた。 「え? 速水?」 「おう! やっぱ成海じゃん! え、三年ぶりくらい? ここで何してんだよ」  気心知れた仲のように、速水は佑月の肩を組んでくる。大学時代の同窓生だ。因みにそんなに仲が良かったわけではない。 「何って酒のつまみでも買おうかと」 「そうじゃねぇよ。お前ももしかして会社の仲間とかと来てるわけ?」  速水の少し離れた場所で、同僚らしい三人の男がチラチラと佑月を見ている。   「俺は、その……まぁ……連れと?」  堂々と言えない相手だけに、佑月の言葉が詰まる。 「ツレ? なーんか怪しいな。どうせ女とだろ?」 「いや、いま彼女いないし……。だから友達だよ」  頼むからこれ以上は突っ込んでほしくない。友達という単語を出すだけで、何か居たたまれなくなるのだ。 「え……? 彼女いないのか?」 「うん」  何故か速水に驚かれるその裏で、その同僚らは「え、あれ男なのか? 美人過ぎるだろ」と、囁きあってる。  まさか俺が女にでも見えるのかと、佑月は怒鳴りたいのを我慢する。しかも男たちの顔が妙に赤いのも癪に障る。  一人憤慨する佑月の横で速水は「へぇ、そうなんだ……」と呟くが、なぜか嬉しそうな顔をしている。  もしかして速水は、人が幸せそうにしてると面白くないと思うタイプなのか。だからと言って、自分はいま別に不幸ではない……と佑月は思った。 「な、なぁ成海。今夜はさ、そのおツレさんも呼んでパーっとやらねぇ? 久しぶりに会ったからさ、話してぇことも一杯あるし。な? いいだろ?」 「いや……どうだろう。あの人は……人見知りが激しいから……」 (須藤さんごめんなさい。あんたは今日から〝人見知り〟ということでお願いします)  須藤が聞いてたら何を言われるか。 「だったらさ、別に成海だけでもいいじゃん。ワケ話したら分かってくれると思うしさ」 「誘いは嬉しいけど、やっぱりごめん。俺は連れて来てもらってる立場だしさ」  花火だってそろそろ上がる時間だろう。その為にわざわざ部屋を取ってくれた須藤の気持ちを思うと、いくら何でも誘いに乗ってしまうのは最低だろう。

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