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夏の終わりに 12
話の矛先が変わったお陰で、須藤の機嫌は恐らく治った。ただ追及するのを諦めただけかもしれないが。
そして部屋に入った途端。身体の芯にまで響く大きな音と地響き。ビックリし過ぎて、佑月は辺りをキョロキョロとする。
「始まったな」
須藤のその言葉で再び〝ドン〟と大きな音がし、そして窓一面には大輪の花が咲いていた。
「うわぁ……綺麗だ」
佑月は思わず子供のように窓に駆け寄った。
近くで上がってるのだろう。こんなに大きな花火を見るのは初めてだった。音も半端なく大きく、弾ける度に身体に直にくる。
「外に出られる。こっちだ」
須藤は佑月の手を握ると、ベッドルームを抜けバルコニーに連れ出す。
見事な和洋折衷。 ベッドルームエリアは完全なる洋風。バルコニーも広くて、デッキチェアがニ脚設置してあるのが目に入った。
須藤に促され、佑月はチェアに腰を下ろす。眺めは最高。計算された部屋の配置には、訪れた恋人たちも、さぞロマンチックな夜を過ごせるだろう。
「それにしても、よくこんな部屋取れましたね」
普通なら予約も取りにくいだろう。須藤に限って何ヵ月も前から予約してる、なんてことは無いはず。
「俺を誰だと思ってる」
「……」
(そうですね。須藤様ですよ)
きっと何かしらの圧力を掛けたのだろう。
この部屋を苦労して取った方々申し訳ございませんと、届きもしない謝罪をしてると、不意に隣に座る須藤が、佑月へと身を乗り出してきた。
「な、何ですか」
逃げる佑月を逃がさまいと、囲うようにデッキチェアの反対の方に手を突いてくる。
「花火が見えない……」
佑月の視界は須藤でいっぱいだ。
花火が上がる中、佑月たちは何故か見つめ合う。こんなに真っ直ぐ見つめられると、さすがに佑月も照れるものがあった。
(と言うか、何でそんなに見るんだ。まさか、顔に何か付いてるのか?)
心配になって、 顔を拭こうと手を持っていこうとしたら、唇が重なっていた。
吐息まで奪うように深く深く重ねられ、佑月の弱い部分をしっかり責めてくる。行方を失った佑月の手は、須藤の浴衣の衿元をギュッと握りしめていた。
「ん……」
この甘い香り。須藤がいつもつけてる官能的な香りが、余計に頭の芯が痺れて蕩けていく。お互いの荒い息遣いは、花火の音よりも鮮明に聞こえる気がして、須藤のキスも益々過熱していく。
やっと満足したのか須藤は、佑月の顎に伝っていた唾液を舐め上げ、最後に唇までも舐めていった。
「ッ……須藤さん……」
「なんだ」
甘い囁きのような声音。須藤はまるで慈しむように、佑月の髪を優しく撫でる。
「いつも風呂入った後でも香水つけてるんですか?」
「香水?」
何故か須藤は意味が分からないといった顔をする。
「え? つけてますよね? ムスク系の甘い香り……」
「そんなもの、つけたことがない」
「ウソ! つけてますよ」
佑月は須藤の衿元を掴んで引き寄せると、首筋に鼻先を持っていった。
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