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夏の終わりに 13

(やっぱり香る)  キツすぎるということが全くなく、ほのかに香るのが余計に女心も掴むのだろう。  人の首筋でクンクンする佑月に須藤が笑う。 「何か匂うなら、それはお前を誘うためのフェロモンだろうな」 「フェロモンって……まさか……」 「ほら」  今度は須藤が佑月の耳の後ろに鼻先をつける。 「お前も甘くていい香りがする。俺の理性をも簡単に壊してしまうような、甘くてエロい香りがな」 「そ、そんなワケないと思うけど……」  押し退けようとしたが、佑月は両手をチェアに縫い付けられる。 「俺の匂いが分かるのは、お前の本能的な部分が俺に惹かれているからだ」 「ちが……」  いや、違わないのかもしれない。須藤の言うことが本当ならば、佑月は初めて会った時から、須藤の甘い香りをしっかりと嗅いでいた。須藤に近付かれる度に、その甘い香りに魅せられていたのは否定できない。 (本能的か……)  この男を強く拒めなかったのは、恐怖だけではなくて、本能的だと言われると、何だか妙に納得している佑月がいた。 「お前はもう俺を受け入れているのを、そろそろ自覚しろ」 「受け入れてる……? ッ……」  須藤の唇が首筋から鎖骨へと降りていく。二人分の重さが加わり、デッキチェアが軋む。 「あぁ。お前の言動、それとこの表情」 「ひょ、表情って……」 「随分と素直な表情をするようになったものだ」 「あ……」  佑月の衿元はグッと大きく開かれ、胸の飾りに軽く唇を落とされる。ただそれだけで身体がビクリと反応してしまった。  そんな佑月の反応に、須藤は佑月の胸元からじっと見上げてくる。その漆黒の瞳は、自分だけを映してるのがよく分かる。 「俺からの連絡がなくて寂しかったんだろ?」 「だ、誰が……」  咄嗟に佑月はそんなことを言ってしまう。  だがそれも須藤は全て見透かし、「素直に認めろ」と指で乳首を捏ねながら言う。 「ふ……ぁ……そうですよ……今まで散々振り回してきたくせに、突然何も連絡がないとか……」 「それで?」  今度は舌先で(くすぐ)られる。 「ん……頭に……きましたよ。何で連絡してこないんだって……」  本当はもう答えが出ていた。だから佑月はあんなに腹が立った。その気持ちを今、佑月は目の前の男にぶつけたくなった。 「バカ野郎……自己中男って罵ってもやりましたよ」 「あぁ」  須藤は愛撫をやめ、真っ直ぐに佑月を見つめる。 「ずっと……あんたのことばっかり考えて、頭から離れてくれなかったよ!」 「上出来だ。佑月」  語気を強めた佑月を、須藤は優しく抱きしめていく。佑月は縋るようにその広い背中に腕を回した。  もう意固地になっても仕方がない。自分の気持ちにウソがつけなくなっている。  この男が好きなのだ。傲慢で自己中でサイテー野郎なのに、どうしようもなく佑月は惹かれている。この大きな胸に抱かれると、とても安心出来るのだ。  須藤は抱擁を解くと、佑月の頬に手を添えて柔らかく目を細め、啄むようなキスを何度もしてきた。

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