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One day 2

「もしかして須藤さんは、いらっしゃらないんですか?」  村山の言うことは綺麗に無視をし、運び屋はまだ話し掛けてくる。  普段から関わることのない二人。特に村山は、この運び屋が気に入らない。犬猿の仲だということも周囲は周知している。  それをお互い知っているのにも関わらず、運び屋は平気で話し掛けてくる。この図太さが不愉快極まりなかった。 「まあ、最近の須藤さんは、一人の美しい青年に入れ込んでますからね。お一人でいる須藤さんを捕まえられるのは、仕事中くらいですか……」  芝居がかった運び屋の口調に、護衛と共に歩き出したその足は止まり、村山の整った眉がピクリと動く。 「その青年見たことありますか? この僕でさえも驚くほどの美しさでしたよ」 「フン。いつまで持つのか。あの男が一人の人間で満足出来るとは思えない」  つい村山は口を開いていた。いつもは冷静でいられる村山だが、一人の男が絡むとそれが崩れる。それに運び屋は一人こっそりと口角を上げた。 「確かに今までの須藤さんなら、一人の人間に執着なんてあり得ないし、一度寝たら次もなんてことは絶対にあり得ませんでした。だけど、彼とはかれこれ五ヶ月くらい続いてるみたいですよ」 「……五ヶ月?」  呟くように言ったのち、村山は頭痛を抑えるように額に手をやった。 「村山さん?」  護衛が心配そうに窺うのを村山は「何でもない」と手で制した。 「五ヶ月か。だが、それも時間の問題だな。どうせ直ぐに飽きて捨てるだろ」  気を取り直したように、鼻で笑う村山。 「そうだといいんですけどね……」 「どういう意味だ」  意味ありげな視線を寄越す運び屋に、村山は低く唸る。 「だって、つい先月には彼の故郷にまで訪れて、その足で二人で温泉行ったらしいんですよ? あの須藤さんが」 「……」  驚きを隠すように少し目を伏せる村山。  そして運び屋の目には深い(かげ)りが落ちていく。 「温泉だろうが、何だろうが、そんなものただの気紛れだろ」  村山はそれだけを言い捨てると、直ぐに護衛と共に、夜の繁華街へと消えていった。 「あの人が気紛れで動くことなんてこと、あり得ないって知ってるでしょ? 村山さん」  運び屋は、小さくなっていく村山の乗った車に語りかける。 「さて、貴方はどうするのかな?」  期待に満ちた運び屋の口端が上がる。  そして直ぐに身を翻し、運び屋も闇夜に消えて行った──。

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