167 / 444

Relationship

◇ 「本日オープンしました【だるま屋】飲み放題に食べ放題、充実の品揃えです。是非お越し下さい!」 「うわぁ、お兄さん綺麗だから必ず行くねー!」 「ありがとうございます!」  駅近くにオープンした居酒屋【だるま屋】。  駅周辺だからか、多くの人間が興味を持っている。  本日、一日最後の【J.O.A.T】の仕事は、ビラ配り。かれこれ一時間近く経つが、沢山用意されていたビラも底をつき、佑月は陸斗らのビラも分けてもらって配ってる状態。 「ねぇねぇ、お兄さんはここのスタッフ?」  立ち止まってくれた二十代から三十代の男性三人。 「いえ、僕はこれのアルバイトです」  一時間近く貼り付けていた笑顔で、佑月は彼らにビラを見せながら答える。表情筋がずっとこれで固まってしまって、今は笑顔以外の表情が作れないのだ。 「なぁーんだ残念。あ、じゃあさ、それ終わったら一緒にそこに飲みに行かない?」  時刻は十九時。まだ飲んでる気配はない三人。 「申し訳ございません。このあとも仕事がありますので」  仕事があるというのは嘘だが、これを言えば大抵は直ぐに引いていく。 「まぁまぁ、そう言わず。ちょっとの時間でいいからさ。あんためちゃくちゃ綺麗だしさ、一緒に飲んだら絶対酒も旨くなるから。なぁ?」 (あれ……? なんで引かない) 「おぅ。行こうぜお兄さん」 「いえ、そのちょっとした時間もござませんので、申し訳──」 「それじゃあさ、今から行こうよ。店の人にはオレらが言うからさ」 (行こうって……正気か?)  れっきとした社会人がどういう神経をしているのか。常識のない男三人はかなりしつこい。ガツンと言ってやりたいが、佑月らは依頼されてる身。揉め事は避けなければならないが、どうにも質が悪い。 「先輩! お待たせしました! 次押してるんで急ぎますよ!」  陸斗ら三人が佑月の異変に気付いて、こちらに走ってくる。 (助かった……) 「すみません、では失礼します。【だるま屋】を宜しくお願いしますね!」 「あ、おい、ちょっと!」  腕を掴もうとしてくる男の胸元に、佑月は最後のビラを押し付けて、最高のスマイルをお見舞いしてやった。 「みんなありがとう。助かったよ……」 「あれで何人目ですか?」  陸斗は鋭い視線を佑月の背後に向ける。 「いや……どうだったかな……」  アハハと佑月は笑って見せるが、正直、何人目とか数える間もないほど、あんな風に声を掛けてくる者は沢山いた。しかも野郎ばかり。まだ女性なら喜べるものを。男にモテても仕方ない。  以前にも増して、声を掛けてくる男の数が、酷くなったのは気のせいではなかった。それも須藤と、あのような関係になってからだ。 「ここ最近の佑月先輩は何て言うのか……ちょっと目を離すのが怖いっていうか……なんか更に雰囲気が……」  ゴニョゴニョと口ごもる海斗。陸斗と花も、同意するように大きく頷いていた。 (三人に心配ばかり掛けてるな。もう少し筋トレメニューを増やすかな)  実は佑月は最近ジムに通いながら、家でも寝る前に腕立て伏せなどを頑張っている。  そして空いてる時間に、真山から軽い護身術まで習っている。 やはり男たるもの、自分の身くらい守れないとだ。

書籍の購入

ともだちにシェアしよう!