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Relationship 3
須藤はいつもバーボンロックで、佑月はマティーニ。
「お疲れ様です」
「あぁ」
こうして二人で店を訪れる時は、いつも他の客がいない。初めは失礼ながら閑散としているなと佑月は思っていたのだが、どうやら違うようだ。
普段は渋い男前だか、笑うと目元に深いシワが寄り、優しげに見えるマスターの中村。その中村は、実は三年前までは※組対五課に籍を置いていた警察の人間だったらしいのだ。
須藤と中村は現役時代からの仲。謂わば癒着関係というもの。お互いの情報を交換し、有益な関係を築いていたという。
その警察をなぜ辞めることになったのかは、佑月の知るところではなかったが。
辞めた今でも中村を慕っていた部下から、沢山の情報が入るらしい。
そしてその関係は今も続いてる二人。佑月がいる前では決して仕事の話は口にしないが、佑月がトイレなどで席を外している時に、二人が話し込んでいるのを知っている。
だからきっと須藤が来る日は、貸し切りにしているのだろう。
「仁、つい先日村山が来た」
(村山?)
雰囲気的にいい話ではなさそうだ。
「おい、どこへ行く」
腰を上げた佑月の手首を掴んで、須藤は怪訝そうに見上げてくる。
「ちょっとお手洗いへ」
「今来たばかりだろ。座ってろ」
座るよう手首を引っ張られるが、佑月は須藤の手を剥がす。
「実はずっと我慢してて……。須藤さん事務所に来た時だって、急かすから行けなかったんですよ」
「仁……トイレくらい行かせてやれよ。成海くん、悪いね。行っておいで」
「はい、ありがとうございます」
不機嫌そうに眉を寄せる須藤を見ないふりをして、佑月は中村に軽く頭を下げてトイレに向かった。
「本当に仁は成海くんにベタベタだな」
中村の笑う声が佑月の耳まで届く。須藤の表情はここからは窺うことは出来ないが、きっと無表情なりにも仏頂面をしているに違いない。
中村が佑月のいる前で話をするのは、佑月に聞かれても問題ないからだろうが、何となく変に気を使ってしまうクセがついてしまった。
しかも五分もトイレに籠るなど……一体何をしてるのかと自身で突っ込みたくなる。
「そろそろ戻るか……」
カウンターに戻ると「遅い」と須藤に目で訴えられる。だが話は終わったようで、終始和やかな空気が流れていた──。
完全に復活した超高級車、マイバッハの車内。その車内は須藤の不機嫌な声で満ちている。
「今日は無理だと言ってる。先約がある。何? ……あぁ、分かった」
通話を終えた須藤は、珍しく深いため息を吐いた。
「どうかしたんですか?」
「……仕事が入った。真山、行き先変更だ」
「かしこまりました」
真山の返事を聞いた須藤は、直ぐにリモコンで後部座席との間に仕切りを作った。
(仕事か……)
仕方ないにしろ、少しガッカリ感が否めない。
「佑月」
さき程の仕事モードの声とは打って変わって、須藤は甘い音色で佑月を呼ぶ。密閉空間ということもあり、緊張も倍増しだ。
「……はい?」
「こっちへ来い」
呼ばれるまま、佑月は少し須藤の傍へと寄ったが、何故か「違う」と言われ、腰から抱えられる。
「え!? ちょっと……?」
「このまま俺の上に跨がれ」
「は!?」
(跨がれって須藤の膝に? 何の冗談? )
※……組織犯罪対策部の略で「組対」
五課は主に、銃器、薬など取り締まる課。
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