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Darkcloud 2

「佑月、悪いが、暫く新店舗の立ち上げで時間が作れなくなった」 「新店舗ですか? 凄い……」  流石と言うべきなのか。一体いくつ店を持っているのか。銀座や赤坂などの高級クラブは、須藤の店がほとんど占めていると聞く。 「とは言っても、俺は最初のスケジュール調整だけして、後は店長に任すつもりだがな」 「そのスケジュールが大変ですよね? 身体壊さないように気をつけてください」 「本当はお前が管理してくれたら一番いいが。どうだ、一緒に住むか?」 「いえ、結構です」  間髪容れずに返事をすると、佑月の返事は分かっていたと言うように「つれない男だ」と須藤は笑った。  だが、どこまで本気で言っているのかが分からない。例え一緒に住んでも、毎日求められたのではたまったものではない。それに、本当に囲われてるようで佑月は嫌だったのだ。特に今の佑月の立場では。 「それと、来週は五日ほど香港に行ってくる」 「香港……」  忙しい男だとはちゃんと理解しているつもりだったが、日本にいないとなると、ぽっかりと心に穴が開いたみたいになる。 「佑月?」 「え? あ……はい。分かりました」  須藤の怪訝そうな顔に、慌てて取り繕う自分に佑月は笑いそうになる。 「それなら、俺の見張りは外してくださいね」 「見張りなら最近は付けてないから心配するな」 「……そうなんですか?」  思わず疑いの目を向けると、逆に心外そうな顔で返される。 「とりあえず今はな。だが、また何か不穏なことがあったら付けるぞ」 「分かりました」  〝とりあえず今はな〟の言葉が妙に説得力があり、佑月は素直に頷いていた。 佑月の返事を聞くと、須藤は直ぐに腰を上げた。 「お帰りですか?」 「あぁ」  腕時計を一瞥した須藤は、ドアには向かわず佑月の傍へとやってきた。そのせいで佑月は少し緊張してしまう。  佑月の目の前に立ち、腰を抱き寄せて、須藤は身体を密着させてきた。 「お前は本当に……一つも敬語が抜けないな」  呆れたように笑う須藤に、佑月は肩を竦めて見せる。 「徐々にじゃないと無理だよ……。それになんか変な感じがする」  敢えてタメ口を使うと、須藤は何とも嬉しそうに表情を崩した。  傍目では分からないだろう、僅かな変化だが、佑月はその表情に見惚れるように、じっと須藤の顔を見上げた。  話し方一つで須藤が喜ぶなら 、少しは努力した方がいいのかもしれない。 「俺にとっては新鮮だな。今すぐ食ってしまいたくなる」 「この神聖な職場ではダメですよ。それに早く戻らない──んっ」  まさに食われそうな勢いで、須藤は佑月の口内を蹂躙していく。相変わらずの熱いキスに、身体が反応してしまいそうになる。 ──ヤバい……これ以上されると……。 「ん……?」  不意に唇が離れていき、その温もりを追うように、佑月が少し踵を浮かした時。 「これ以上は、俺もヤバいからな」  自制するように、須藤は最後に軽くキスをする。だがその目は、まだまだ飢えているかのように熱く滾っていた。それはきっと佑月も同じだ。

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