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Darkcloud 6

「すみません。ちょっと電話が掛かってきたので出てもいいですか?」  佑月は鞄の中にあるスマホに手を触れる。 「いやぁ、すみませんね、先生もお時間が無くて急いでいらっしゃいます。お電話はその後でお願いします」 「……そうですね。失礼しました」  思わず顔に出てしまいそうになるのを、佑月はグッと堪えた。  万が一のことを考えて、陸斗に連絡入れておきたかったが、あえなく失敗。退路を断たれた気分だったが、とりあえずと、佑月はあることだけをしておいた。  中へ通されると、やっぱりなとしか言い様がないような事務所内。どこが【アトリエ・dragon】だと問い質したくなる。  来客用の重厚な黒いソファ、机も何脚かあり、一見すると普通の事務所だが、この部屋にいる男らがどう見ても普通には見えなかった。見ないようにしても、ニヤニヤと佑月を見ているのが分かる。 「成海様、どうぞこちらにお掛けになってお待ちください」  警戒する佑月を余所に、案内してきた男はソファへと促してくる。一瞬躊躇するも、佑月はとりあえず腰を下ろすことにした。 「先生、成海様がお見えになりました」  一人の男が奥の部屋の扉を控え目にノックする。直ぐにその扉は開き、男が姿を現す。 (先生ね……)  フレームのない眼鏡を掛け、いかにも頭が良さそうな風貌。だが、纏う空気はここにいる男たちよりも、鋭利で肌を刺すようだ。  しかもあんな高そうなスーツを着て、陶芸をするのかとツッコミたくなるような姿。しかし、世の中には色んな人間がいるし、この後出掛ける予定があるのかもしれないが。  そんなことよりも佑月の中では、ずっと警鐘が鳴っていた。ここはヤバいと。 「わざわざお越し頂き、ありがとうございます」  男は口元だけに笑みを作り、ゆっくりと佑月の傍へと足を運んでくる。佑月は形上、腰を上げ軽く頭を下げた。 「いえ、それを生業(なりわい)としておりますので。こちらが預かっていた花瓶です」 「ええ。確かに受け取りました」  そう口にはしているが、実際受け取ったのは弟子。スッと現れて佑月の手から紙袋を受け取ると、静かにその場を去っていく。 「では、確かにお渡し致しましたので、私はこれで失礼させていただきます」 「ちょっとお待ちください」 「……」  出来るなら早々と立ち去りたかったが、やはりと言うか、そうはいかないようだ。  佑月が振り返ると、男がソファに腰を下ろしているところだった。 「そんなに慌てて帰らなくても宜しいではないですか」  足を組んで佑月を見上げる男。この男の目は、全てのものを見下してる感が半端ない。 「ですが、お時間がないと仰ったのはそちらではなかったでしょうか?」 「そんな小さな事は気になさらず。どうぞお掛けになってください」  有無を言わさないかのような鋭い目で佑月を一瞥してから、男は座るよう手でソファを指し示した。  どうやらこの依頼は、初めから佑月を誘き出すためのものだったと考えて間違いないようだ。いきなり押し掛けたり、拉致したりするような真似をせず、佑月から足を向かわせて。  ドアにそっと目をやると、そこには見覚えのある男が立っていた。

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