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Darkcloud 8
「聞こえなかったのか?」
「いえ……聞こえてます。でも、手を引けってどういう事ですか」
「存外に理解力がないのか? 関わるなと言ってる」
感情に起伏がなく、一本調子なメガネの声音。こういう類いの人間は情というものが希薄なことが多い。だから情に訴えるなんてことをしても、この男には何も響きはしないだろう。
一番厄介な人間だ。だが佑月はいつだって黙っていられない性格。
厄介な人間に口答えなど、良い結果は生み出さないと分かっているのに、つい口を開いてしまう。
「関わるなって……。何故あなたにその様な事を言われなければならないんですか?」
「随分と肝が据わってるようだな。だがな、お前と須藤とでは住む世界が違うことくらいは分かってるだろう? お前のような人間が、須藤の周りをうろつくなど、目障りだ」
確かに一般人が踏み込む世界ではないことは分かっている。佑月とて、本当なら関わりたくない世界だ。だが今となってはもう遅い。あの男に惚れてしまったのだから。
「貴方の言いたい事は分かります。だけどそれは、須藤さん本人に言われるのならまだしも、見ず知らずの貴方に、どうこう言われる筋合いはないと思いますが」
「俺の言いたい事が分かる……だと?」
瞬間、部屋の空気が凍る。どうやら踏んではならない地雷を踏んだようだ。
それは佑月の全身までもを一気に蝕んでいくように、微動だに出来ずにいた。
メガネが煙草を口に咥えると、後ろに控えていた構成員が直ぐ様、火をつける。その間もメガネは佑月から一切視線を逸らす事なく、真っ直ぐに見据えてくる。まるで蛇に睨まれた蛙のような気分だった。
「少し遊んでやろうか。おい」
「はい」
メガネの呼び掛けに部屋にいた男らが集まる。その数、町村含め四人、膝に手を突いた中腰の姿勢で命令を待っている。
「そいつの服を剥げ」
「はい」
「な……やめろ!」
メガネの命令に男たちは佑月の身体を押さえ込み、スーツを乱暴に剥ぎ取っていく。
「やめて……くれ」
抵抗しようにも、男四人には太刀打ちも出来ない。あっという間に佑月の上半身は裸にされてしまう。
「おいおい、男のくせに、なんつーエロイ身体してんだ」
「乳首の色見てみろよ。まるで女だぞ」
「腰のラインがたまんねぇな」
口々に下品なセリフを吐く男らに、佑月は反吐 が出そうだった。そして、スラックスも脱がされそうになった時、メガネが制止の声を上げた。
「下はいい」
「え? 何でですか? 犯らせてくれないんすか?」
「お前らが犯ってるのを見ても、俺が愉しくないだろ」
「はい……」
明らかに落胆の色が混じる男たちの声。ヤられずに済んだと安心しかけたとき、メガネがゆっくりと腰を上げた。
四人の構成員は素早く佑月から離れて行く。佑月はなけなしの気力でメガネを睨み付けながら、スラックスのファスナーを上げ身構えた。
口に咥えている煙草の灰が落ちていく。メガネはその煙草を指へと移すと、佑月の目線に合わすように、目の前にしゃがみ込んできた。
「ふぅん……なるほど、確かに綺麗な肌をしているな」
スルリと腹部に指を滑らせられ、佑月の身体に一気に悪寒が走り抜けていった。
「……触るな」
「この身体で何度抱かれた?」
メガネの指はゆっくりと上昇し、そして胸の頂を軽く掠めていく。
たったそれだけのことに、佑月の身体はビクリと反応してしまい、一気に羞恥に襲われる。
消えてしまいたいと思うほどに……。
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